「お前は昔から、強情だったからな。剣の稽古でどんなにしごいても、けして弱音を吐かなかった。一度くらい泣いて逃げ出すかと思っていたのに」
「そんなこと…考えたこともない」
リュイスが立てと命じる限り、自分は立ち上がる。
だって失望されたくなかったから。
当時のテオにあったのは、それだけだ。
あの頃から自分を侮っていたのかと、むくれた顔になったテオの頬を、リュイスは柔らかくつまんで「知っているよ」と呟いた。
「テオは泣いて許しを請うより、限界まで耐えて倒れてしまうことを選ぶ子だって、レフに言われたことがあったな」
「レフ様が?」
「そうだ。オコサマ同士、気が合うんだなって言ったらあいつ、それくらいわかれって、ぎゃんぎゃん喚いて怒ってた」
懐かしそうに語るリュイスは、王宮にいた頃、イタズラを仕掛けたときと同じ顔で笑っていた。
テオはそんな彼を見るのが本当に久しぶりだと気付いて、胸を熱くする。
「…他に時間稼ぎの理由が、思い浮かばなかったんだ」
ぽつりと呟いたリュイスは、少し悩むように黙ったまま、テオの髪を弄っていた。
長い指がテオの髪に絡んでは、ほどかれて。彼は溜息を吐くと、テオの顔を両手で包んだ。
真摯な瞳がテオを映している。
「リュイス様?」
「なあテオ」
「…はい」
「お前、私の元へ来る気はないか?」
うっとりと緑の瞳を見つめ返していたテオは、リュイスの言葉にはっとして、視線を鋭くした。
「ありませんっ」
「テオ」
「離して下さい、離せっ」
リュイスの手を振りほどき、逃げ出そうと暴れるテオを、リュイスは強い力で抱きしめた。
「嫌だ、離せっ」
「落ち着け」
「落ち着いていられるか!貴様、僕を何だと思っているんだ。僕の陛下に対する忠誠をなんだと…っ」
「わかっている。わかっているから、暴れるな」
暴れるテオを抱き竦めようとしていたリュイスは、あまりの抵抗に埒が明かないと思ったのだろう。一度目を閉じ、開いた。
ゆっくりと緑の瞳が輝きを増してゆく。それしたがって、テオは自分の身体が動かなくなっていくのを感じた。
「っ…く!」
「最後まで聞きなさい」
やれやれ、と溜息を吐いて、リュイスはテオの身体を寝かせると、細い身体に覆いかぶさって唇を重ねた。
「聞く気になったか?」
尋ねても、テオはリュイスを睨むばかりだ。意志の強い瞳を見つめながら、リュイスはテオの髪に指をくぐらせる。
「別にお前を海賊にしようと言うんじゃない。略奪に加わりたくないなら、それでも構わない」