語りかけるリュイスの言葉がわからなくて、声を出せないテオはぱちぱちと目をしばたかせる。
国有船から宝石の略奪を続けているリュイスたち。仲間になれと言いながら、それには加担しなくてもいいなんて。そんな都合のいい話、信じられるはずがない。
しかしリュイスは、変わらぬ真摯な表情で、テオに囁いた。
「私はお前を、帰したくないんだ」
苦笑いを浮かべて囁いたリュイスは、すうっと目を閉じた。再び開いたとき、緑の瞳には穏やかな色だけがある。
身体が動くとわかっても、テオはじっとリュイスを見つめているだけだ。
「もう王宮には戻るな。海賊にならなくてもいい。ただ私のそばにいてくれ」
「リュイス様…」
「お前もその身で思い知ったろう?今、この国は揺れている。髭野郎がどんな下らない言葉で兵士を唆したのか知らないが、今のラスラリエでは、同じようなことが何度でも起きるぞ。…二度目は、無事で済まないかもしれない」
「でも、それは」
「第三小隊がお前の身柄を拘束していると聞いて、私がどんな気持ちでいたかわかるか?テオ。…もうこれ以上、私に心配させるな…」
リュイスの言葉を聞いて、テオは目を見開いた。
基地ではペンダントを取り返しに来たと言っていたリュイス。でも彼は、テオのために現れたのだ。
どんな手段でかはわからないが、テオが副隊長に捕えられたと知って。
もしテオがまだ捕まっているのなら、救い出すつもりで来てくれた。
零れていく涙を拭うことも忘れ、テオはリュイスに縋りついた。
今になって思えば、副隊長が姦計を謀らずとも、テオは十分に疑われるだけの立場にいただろう。何日にも及ぶリュイスの監禁から解放されたテオには、猜疑の目が向けられて当然だった。
それを決定的にしたのが、副隊長だったとしても。
一部の部下がテオにしようとした、恐ろしい行為を思い出して、身体を震わせる。
もしあのまま逃げられなかったら。
リュイスが基地に乗り込んでこなかったら、自分はどうなっていただろう。
音もなく静かに、しかし確実に腐敗の始まっているラスラリエ。
どんなに新王クリスティンがそれを止めようとしていても。不安という恐ろしい病は、すでに国を侵食し始めている。
同じようなことが今後も起きると、リュイスは言う。この国を守り続けていた緑の賢護石の、確信に満ちた言葉だ。
蘇った恐怖に震えるテオの肩を、リュイスは優しく撫でていてくれる。
この人と一緒にいれば、もう恐ろしい目に遭わなくても済むんだろうか。何も苦しまず、リュイスだけを見つめて笑っていられるだろうか。