さっきまで共有していた熱い、甘い時間を永遠のものに出来たなら、テオは誰よりも幸せになれるのかもしれない。
「貴方とずっと、一緒にいられる?」
「ああ」
「もう僕を置いて行かないって、約束してくれますか?」
「約束するよ」
かつての意地悪なリュイスからは想像もできないような、真摯な瞳。深い緑を見つめていると、身体が疼いてどきどき胸が高鳴るけど。
テオはどうしていいかわからず、声を押し殺しながら泣いていた。
「テオ?」
「ふ…っく、ぅ…」
「どうした。どうして泣く?」
甘い言葉で約束を求めた途端、辛そうに顔を歪めるテオを見て、リュイスは焦った表情を浮かべている。
戸惑いがちに髪を引っ張るリュイスの指先を、テオは首を振って逃げ出した。
どうして、なんて。なぜそんな不思議そうに、涙の理由を尋ねるのか。
強引に自分の身体を開き犯したことも、何人もの部下を打ち倒したことも、事実はなくならない。
何よりテオが一番許せないことを、この人はしたのだ。
―――私のもとに戻って来るんだよ…
国王クリスティンの囁いてくれた言葉が警鐘を鳴らしていた。
リュイスのもとへ行き、一緒にいるということは、賢護石でありながら国を裏切った彼の過去を全て許し、その上自分までもクリスティンを裏切ることに他ならない。
あの戴冠式の日。
自分と同じように何も知らなかったクリスティンは、たくさんのものを失った。
友人も、父や弟も。共に国を護ってくれるはずだった要の存在まで。
弟に父親を殺され、信じていた臣下を手にかけざるをえなかった人。彼はどんな気持ちで、自分の元から逃げ去った反乱者たちを見ていたのだろう。
斬りつけられた傷は腕よりも、心に痛みを与えたはずだ。
リュイスが好きだ。
もう、認めるしかない。テオは誰より、この酷い男が好きなのだろう。
その気持ちはずっと幼い頃からテオの中にあって、恋心だとは気付かず憧れ続け、ただ必死にリュイスの背中を追った。
軍人として、家族として。どんな存在でもいいから、ただリュイスのそばにいたくて。
でもそうして一生懸命に自分を鍛え、テオが手に入れたもの。
それは今ここで自分を抱きしめていてくれる、リュイスへの想いだけじゃない。
もうひとつ、けして揺るがないラスラリエ国王クリスティンへの忠誠も、テオが手に入れた大切な気持ちだ。
リュイスへの想いと、クリスティンに対する忠誠は、テオが自分で育てた大切な心の柱。どちらが欠けても、テオはテオでなくなってしまう。