脳裏に浮かぶクリスティンの優しい笑顔に、目の前にいるリュイスの穏やかな表情のが重なる。しかし二つは、けして混ざり合おうとしない。
テオはただ泣くしかなかった。
辛いのだ。まるで身体が傷だらけになっていくみたいに。
苦しいとか怖いとかじゃなく、痛いというのが正直な気持ち。
今、このまま。自分で見つけた想いに逆らわずリュイスと共に行けたら、幸せになれるのだろうか。
しかしそれを聞いたクリスティンは、どんなに悲しむだろう。
大切な人を不幸にするとわかっていながら、幸せなんて手に入るはずがない。
リュイスと共に行っても、テオはクリスティンの悲しみを考え、苦しみ続けるに決まっている。
「…リュイス様…リュイス様」
「テオ」
泣きながらリュイスにしがみついたテオは、胸の奥に突き刺さった切なさに耐え切れず、小さな囁きを零した。
「…帰って来て…」
「テオ、お前」
「お願いです…帰って来てください…」
自分の身体をこんな風に求めてくれるなら。少しでも今の自分を可愛いと思っていてくれるなら。
テオを海賊の元へ連れて行くんじゃなくて。リュイスこそ海賊なんかやめて、帰って来て欲しい。
「テオ、それは」
「お願いです、お願い…」
「…私を困らせるなよ」
「どうして…?何でもします。貴方が帰って来てくださるなら、どんな咎めも一緒に受けます」
「…………」
「だから…だからどうか一緒に…クリスティン陛下のもとへ戻ってください…っ」
泣きじゃくるテオの顎に指をかけ、顔を上げさせたリュイスは、国王の名を聞いた途端、不愉快そうに眉を寄せた。
「それはできない」
「リュイス様…」
「言ったろう?私はあいつが嫌いなんだ。名を聞くだけでも虫唾が走る」
「なぜそんな風におっしゃるんですか?あの方がどんなにお優しい素晴らしい方か、僕なんかよりリュイス様のほうが、ずっとご存知のはずでしょう?」
見た目より長く賢護石として王家に仕えていたリュイスなら、テオの知らないもっと幼い頃のクリスティンも知っているはずだ。皇太子の頃から、彼が自分に課し続けていた努力も見ていただろう。
訴えるテオの必死な言葉に溜息を吐いたリュイスは、生来の意地悪な表情を浮かべて「では」と言葉を紡いだ。
「お前は海賊になれるか?」
「え?」
「楽しいぞ。仲間には天候を操る奴も、水を操る奴もいるから、どんな航海にも危険はない。子犬のようにキャンキャン吠え立てて向かってくる軍を蹴散らすのも、高みの見物を決め込むのも自由だ。…欲しいものだけ手に入れる、気ままな生活」
「リュイス様!」