【Lluis×TheoE】 P:05


 そう言い置いて、リュイスは立ち上がると窓に近づき、外の様子を眺めている。
 取り出したパンに噛り付いたテオは、驚きに目を見開いた。

「…町へ、行ったんですか?!」
「ああ」

 挟んである肉に絡められたソースの、甘辛い濃い目の味。この落盤した鉱山から一番近い町の、名物だ。基地からここへ遠征してくる途中、その町の出身だという部下が差し入れてくれたものと同じ味。
 リュイスはわざわざ危険を冒して、町までこれを買いに行ったのだろうか。

「貴方はお尋ね者なんですよ!わかってるんですかっ?」
「何とかなるもんさ」
「な、なんとかって…」
「お前が冷めた料理は美味しくないとわがままを言うから、調達してきたんじゃないか。温かいうちにさっさと食べなさい」

 ―――じゃあ、僕のために?

 最初にここへ囚われていたとき、なんとか脱出の機会を得られないものかと口にした言葉を、リュイスは覚えていてくれた。

 テオの心がじわりと熱くなる。噛り付いたパンは、遠征の途中で食べたときよりも美味しい気がした。
 あの時だって部下の気遣いが嬉しかったけど。気遣いなんていう言葉とは程遠い性格のリュイスが、自分のために買ってきてくれたのだと思うと、ずっと美味しく感じてしまう。

 今ではリュイスと同じ海賊になってしまった、まばゆいばかりに輝く金色の髪の持ち主。黄の賢護石レフ。
 リュイスよりずっと長く賢護石の任を努めているのに、今のテオより若い姿を留めている彼は、王宮にいるときから料理が趣味だった。
 テオは自分にもよく手料理を振舞ってくれたレフに、聞いたことがある。なぜ賢護石という立場でありながら、いつまでも人に料理を作り続けるのかと。
 レフは幼い顔に大人びた表情を浮かべ、髪と同じ金色の瞳を優しく細めながら、テオに教えてくれた。

 ―――旨いものを食べて、不幸になる奴はいないだろう?料理ってのは、手っ取り早く他人を幸せにする方法だ。そのうちお前にも教えてやる。

 あの時の約束は、いまだ果たされないままだけど。レフの言葉の意味が、テオには今になってやっと実感できた。
 たとえ手ずから作ってくれたものではないとしても、リュイスがテオのために用意してくれたというそれだけで、こんなにも幸せになれるのだ。

 テオの心が再び揺れる。
 リュイスと一緒に行けば、そこにはレフもいるはずだ。いつも自分を気にかけてくれた、幼い容姿の賢護石。あの人と、もう一度話がしたい。