でも、もし。
レフにまでクリスティン陛下を貶めるようなことを言われたら。そう思うと会うのが怖い。
「どうした。口に合わなかったか?」
リュイスは窓の傍から戻ってきて、手の止まっているテオの顔を覗き込んだ。慌てて首を振る。
「美味しいです」
「そうだろ。これは私も気に入っているんだ」
「…リュイス様は食べないんですか?」
「気にするな。一人で全部食べなさい」
「でも…」
気持ちが落ち着かないせいで、どうにも喉が通らない。なんと言い訳したものか、考え込んでしまうテオを見て、リュイスはにやりと口の端を吊り上げる。自分も診察台に腰を下ろした。
「だったら、ひとくち分けろ」
「え?」
「ほら」
子供のように口を開け、自分の方へ顔を突き出しているリュイスを見て、テオはくすくす笑いながら手元のパンをちぎった。それを整った口元に押し込んでやる。
「美味しいですか?」
少し心が軽くなったような気がして、首をかしげながら尋ねてみる。舌先で唇を舐めているリュイスは、大きく頷いた。
「旨いな」
「はい」
「お前も食べなさい」
リュイスに言われ、テオは改めてそれに噛り付く。
せがまれるまま、ときどきリュイスの口にも放り込んで、二人で分けながら食べたその味を、テオは一生忘れられない気がした。
こんな風にリュイスと近い距離で、ものを食べたことはない。
息がかかるくらいそばで、同じものを分け合うなんて。リュイス相手じゃなくても誰ともしたことがない。
隣り合って座るリュイスが、テオの腰に腕を回して細い身体を引き寄せる。誘われるまま力を抜き、寄りかかったテオが恥ずかしげに下を向いていると、顎に指をあてられ顔を上げるよう促された。
そのまま二人、言葉少なに見つめあったまま、食事を分け合った。
咀嚼しているのをじっと見つめられるのは、なんだかとても恥ずかしかったけど。同じように食べているリュイスを見ていたら、肌を触れ合わせているような、艶めかしい熱さが身体の芯に生まれてしまう。
それはリュイスも同じだったのだろう。食べ終わった途端、手を掴まれて指先のソースを舐め取られた。
「ぁ…っ、あ」
ちらりと視線を上げたリュイスは、ソースなどついてもいないテオの指の根元まで、ゆっくり舌を這わせていく。指の間を舌先でちろちろ舐められ、テオは顔を赤くしたまま息を吐き出した。
熱くてたまらない。思わず掴まれていない方の手を口元に押し当てる。