声を押し殺すように、自分の指に歯を立てているテオを見て、リュイスがくすくす笑い出した。
「いやらしい顔だな、テオ」
「やだ…言わないで下さい」
「こら、隠すな」
顔を背けようとするテオを許さず、リュイスは細い身体を押し倒すと、強引に唇を重ねた。絡み合う舌は、蹂躙されている口中と同じ、甘辛いソースの味がする。
貪るように互いの舌を求め合って、荒い息を吐きながら唇を離したとき、リュイスは深刻な目でテオを見つめていた。
「リュイス…さま…?」
「テオ。ここは囲まれている」
「え…」
「討伐隊だ。援軍が到着したんだろ」
はっとしたテオの顔から、欲情の色が消えた。それを見て、リュイスは苦笑いを浮かべる。
「もう、迷っている暇はない」
「リュイス様」
「私のもとへ来い。テオ」
恫喝するような低い響き。身体の中に溢れかえる想いと、切なさがせめぎあう。
もっとそばにいたい。やっと気付けた気持ちを、リュイスと分かち合いたい。このまま彼の手で、身も心も暴かれてしまいたいのに。
どうしてもテオは、リュイスの後ろにちらつくクリスティンの姿を、消し去ることが出来ないのだ。
涙を零し、何度も口を開いては閉じて。
唇を震わせていたテオは、とうとう首を振った。
「テオ…」
後から後から涙が溢れてくる。
首を振った瞬間から、心の中を後悔が侵食していた。
でもそれを振り切るようにして、テオははっきり「行けません」と呟いたのだ。
「貴方とは、行けない」
「………」
「僕はどうしても、陛下を裏切ることが出来ない」
どんなにリュイスが好きでも、そのためにクリスティンを裏切ったら、テオの心は死んでしまう。
心の一番高いところへ掲げた、誓いなのだ。この国に終生の忠誠を捧げること。国王陛下を守り続けること。
自分はけして、彼を裏切れない。
もし今、一時の感情に流されてリュイスの元へ身を寄せても、テオはクリスティンを思い出すたび苦しみ続けるだろう。
魔族たちの中にありながら、魔族を憎んで。いつかリュイスまで憎むようになるかもしれない。
そんなことになったら、テオはリュイスとクリスティンのどちらも裏切ることになってしまう。
両手で顔を覆い、掠れた声で「ごめんなさい」と繰り返すテオ。リュイスは一度目を閉じて、溜息を吐きながら開くと、愛しげにテオの髪を撫で、囁いた。
「だったら…私と二人で逃げるか」
「…え?」
「国からも、海賊からも」