足に力を込め、細い身体をリュイスにぶつける。揺らいだ隙に離れようとして、捕まえられ殴りつけられる。どちらも望んでなどいない戦い。傷つけあうばかりの、意味のない争いだ。
逃げようと背を向けたテオに、リュイスが剣を振る。治してもらった背中の傷と、同じところを斬られたのだとわかって、テオは眉を寄せる。
確かにあの傷がなくなっていたら、またテオは疑われるだろう。
リュイスは苦しげに、しかし冷静にテオを傷つけている。それがわかっているから、テオも自分の体に抵抗の痕跡が残るように暴れていた。
テオが血を流すたびリュイスの顔は苦渋に歪み、それを見るたびテオは立ち上がって、リュイスに立ち向かった。
どれくらいそうやって、もみ合っていたのか。とうとう診察台に倒れこでしまったテオに、リュイスが覆いかぶさった。
見つめあう視線が止まる。どちらの顔も苦痛に歪んでいた。
「テオ…痛いか?」
掠れた声で尋ねられ、テオは痛みをこらえて首を振った。
「平気です、これくらい」
「…………」
「僕はあなたの稽古を、最後まで耐え抜いた男ですよ?」
にこりと微笑んだテオの頬に、血がにじんでいる。リュイスも苦笑いを浮かべ、指先で頬の血を拭った。
「そうだな。お前は我慢強い子だ」
「はい」
それ以上、どちらからも言葉が出てこなかった。荒い息を吐きながら視線を合わせて、引き合うように唇を重ねた。
テオの心が行きたくないと叫ぶ。離れたくないと泣いている。
その思いを全部注ぎ込んで、リュイスを抱きしめ熱い舌に吸い付いた。
離れがたく絡み合う二人は、息が止まるほど口付けを続けて。互いの唇を舐めながら、とうとう離れてしまう。
「…行きなさい」
「リュイス様」
「早く行けっ!」
強い力で腕を引かれ、扉の方に突き飛ばされる。
振り返ったら二度と立ち上がれないのはわかっていた。テオはそのまま、扉に走って救護室を飛び出した。
「待て!テオ・オーベリー!!」
後ろから追ってくるリュイスの怒鳴り声が、テオにはまるで、悲鳴のように聞こえた。
足を止めずに前へ進み、開けた視界に味方の軍を見つける。しかし背中に走った激しい熱に、思わず膝を付いた。
「オーベリ隊長!これをっ」
聞き覚えのある声がテオの名を叫んで、何かを投げて寄越した。それを剣だと判断した瞬間、なんとか受け止め握り直して、リュイスを振り返る。
剣を構えながら、ふらつく足で必死に立ち上がった。