【Lluis×TheoE】 P:10


 テオの剣を握ったまま立っているリュイスの視線は、テオではなく自分たちを取り巻いている討伐隊に向けられている。

「これはこれは。小隊長一人に随分豪勢な援軍だな」

 皮肉げな言葉を吐き出したリュイスの前に、一人の男が進み出た。落ち着いた雰囲気の軍人は、じっとリュイスを睨みつけている。

「お久しぶりですな、元帥」
「そうでもないだろ?こないだ西の岬まで海賊退治に来てたじゃないか。もっとも、惨敗したんじゃ記憶にも残らないか?」
「相変わらずの憎まれ口だ」

 ふっと口元を歪める男は、ゆっくりした歩調でリュイスの前に立った。思わず膝をついてしまったテオは、その姿を間近で見上げ、目を見開いている。

「将軍…」

 まさかこんな大物が、援軍として派遣されてくるとは思ってもみなかった。
 討伐隊全体を取り仕切る男は、柔らかい表情でテオを見下ろしている。

「命があってなによりだ。オーベリ隊長」
「…申し訳ありません」
「構わんよ。何があったのか、大まかなことは聞いている。大変な目に遭ったな」
「どうして、貴方のような方が」
「我々は仲間を見捨てたりしないということだ。…あの男と違ってな」

 そう言って将軍はリュイスを睨みつけ、腰の剣を抜いた。そのまま歩を進め、テオを庇うかのようにリュイスの前へ立ちはだかる。

「おとなしくしていただけますかな?」
「嫌だね」
「まったく…面影もありませんな、元帥。自ら育てた少年にまで、このような仕打ちをなさるとは」
「仕方ないだろ?そいつが言うことを聞かないんでね。厳しくしつけてやるのが、親の務めだと思わないか」

 にやりと笑ったリュイスを睨む、将軍の視線が鋭さを増した。緊迫した状況を見計らって、二人の兵士がテオのもとに駆けつけてくる。
 彼らは第三小隊の兵士たちだ。
 背中を支えてテオを抱き起こした兵士を見て、テオはほっと表情を緩めた。
 思わずテオが庇ってしまった兵士。テオと弟を重ね、牢の向こうから最後まで自分を励まし続けてくれた男だ。
 彼は傷だらけになっているテオを見て、辛そうに眉を寄せた。

「おい、大丈夫なのか」
「平気です。ご心配お掛けしました」
「…全然、平気じゃないだろ」

 怒っているような顔で、布を裂きテオの傷に巻いてくれている。テオはリュイスに言われたことを思い出した。
 勝手に庇って命を落としたら、残された人間はどうするんだと。リュイスに連れ去られる寸前、テオが庇ったのはこの兵士だから。