「陛下…」
「会いに来るのが遅くなってしまったね。傷の具合は?」
「あ…もう、平気です」
「そう?まだ起きられないでいるって聞いたけど」
ゆっくりした歩調で近寄るクリスティンを、テオは呆然と見つめていた。
彼に会うのは久しぶりだ。あの鉱山に派遣される前に会って以来。
帰還してからは負傷兵として医療部に連れて行かれ、報告の場にさえ立ち会えなかった。
―――お痩せになった…?
幼い頃、病弱だったというクリスティンには、今でも線の細い印象があるのだが。それだけではなく、間近に会うと頬の辺りがやつれたようにさえ見える。
「寝ていなくても大丈夫なのかい?」
「はい」
「そう。じゃあ、少し話しても?」
「陛下…陛下」
もしかして、自分のせいなのだろうか。
彼はテオを心配し、その窮状を知って将軍の派遣を断行してくれたと聞いている。 傍へ来てベッドの端に腰掛けたクリステインに頭撫でられたテオは、涙が零れていくのを止められなかった。
「心配していたよ、テオ」
「っ…し、わけ…申し訳、ありません」
「謝らなくてもいい。帰って来てくれて良かった」
「陛下…っ、め、なさ…ごめんなさい、ごめんなさい…クリスティン様っ」
幼い頃、まだ皇太子だった彼と話していた時のように、テオはつたない言葉で謝罪を繰り返す。
でも、何を謝るのだろう。自分は?
この人を傷つけた男だと知っていながら、リュイスに惹かれているからか。それともクリスティンへの忠誠が揺らぐほど、リュイスの誘いに迷ってしまったからか。
泣きじゃくるテオを優しく抱きしめて、クリスティンは頭を撫でていてくれる。
こうして優しくしてもらうことすら、今のテオには辛かった。でも心が弱っていて、温かい手から離れることが出来ない。
しばらく黙ってテオの髪を梳いていたクリスティンは、しゃくりあげて泣いてたテオが少し落ち着くのを待って、真っ赤に泣き腫らした目を覗き込んだ。
「テオ、怒らずに聞いて欲しいんだ」
「…………」
「君がリュイスに攫われたと聞いたとき。本当はもう、戻ってこないんじゃないかと思ったんだよ」
「クリスティン、さま」
「君がどんなにリュイスを慕っていたかは知っている。彼もことのほか君を可愛がっていた」
「そ、れは…」
「海賊討伐隊に志願した理由も、彼に会いたかったからだろう?」
最初から気付いてはいただろうが、改めてそう尋ねられ、テオが下を向いてしまうと、クリスティンは何度か優しく肩を叩いてくれた。
「責めているんじゃないよ」
「…陛下」