【Lluis×TheoF】 P:07


 くすっと笑ったクリスティンは、腰掛けていたベッドから立ち上がると、テオの額に口付けた。

「君はこの王宮に残る、数少ない私の友人だ。本当は用がなくても訪ねてくれると嬉しいんだけどね」

 屈託のない笑顔でにこりと笑ったクリスティンは、送らなくてもいいから寝ていなさいと言い置いて、ゆっくりテオの傍を離れていく。
 しかし扉を開ける寸前、振り返った。

「陛下?」
「…彼らが何をもって私を憎むのか。彼らの本意がどこにあるのか。私にはどうしてもわからないんだ」
「…はい」
「しかし私は、この命ひとつで彼らの残虐な行いが止められるのなら、それでも構わないと思っているんだよ」

 それは自分にだからこそ零した、クリスティンの本音なのかもしれない。
 彼は本当に優しい人だから。今にも自分の身を投げ出してしまいそうな、諦めの滲む声を聞いて、テオは身を乗り出した。

「なんてことを!そんな馬鹿なこと仰らないで下さいっ」
「テオ…」
「やめてくださいっ…そんな、そんな悲しいこと…言わないで」
「…………」

 テオは首を振って、必死にそう訴える。少し目を伏せたクリスティンは、やがて顔を上げると「そうだね」と小さく呟いた。

「見張っていてくれるかい?」
「え?」
「私が二度と馬鹿な考えを起こさないように。君は、私に残された勇気なのかもしれない」
「僕、が?」
「そうだよ、テオ。どんなに倒れても立ち上がる君の姿に、私は昔から励まされているんだから」

 ふわっと花が開くように、穏やかでどこか子供っぽい笑顔を見せたクリスティンは、そのまま部屋を出て行った。

「クリスティン様…」

 本当は少しでもリュイスに会える可能性がある海賊討伐隊に留まりたい。しかし今のクリスティンの話しを聞いて、近衛師団に戻った方が陛下のためになるのかもしれないと、テオは胸の辺りを握り締める。

 どんなときにも揺るがない、強い意志を持っていると信じていた国王陛下。だがクリスティンの心は、すでに疲弊しているのかもしれない。
 本当に自分などが、彼を支える一人になれるのだろうか。
 自分が近衛師団に戻り、国王に近い場所で仕える事で、少しでもクリスティンの心が癒されるのなら…

「相変わらず、忌々しいな」

 唐突に聞こえた低い声。
 顔を上げたテオは、もう誰も開かないと思っていた隣の部屋の扉が開いているのを見て、驚きに大きく目を開いた。

「リュイス…様…?」