テオの寝室と、リュイスが使っていた寝室とは、扉一枚で繋がっている。部屋の主がいなくなって以降、誰も立ち入らなかった場所。掃除をする者さえいなかったそこに、扉を開いたリュイスが憎しみの窺える表情で寄りかかっていた。
「どうして!こん、な…んんっ」
すばやく傍まで来たリュイスの手で、口を塞がれる。
「声を上げるな。気付かれるだろ」
「ん、んっ!」
「いいから、大声を出さないと誓え」
仕方なく頷いたテオの口から手を離し、リュイスは軽く口付けた。
「いい子だ」
「どうしてここへ…どうやって」
「私が何年、賢護石として王宮にいたと思ってるんだ。抜け道ぐらい把握している」
「抜け道?」
「ああ。私の寝室は直接外と繋がっているんだ。知らなかったか?」
そんなこと初耳だ。
目を見開いているテオに笑いかけたリュイスは、するっと身体を撫で上げた。
「お前の身体が気になってな…もう傷がなくなっても、疑われることはないだろ。治してやるから脱いでみろ」
それとも脱がして欲しいか?と冗談めかして囁きながら夜着を解こうとしているリュイスの手を、テオは強く振り払った。
「おい」
「そんなこと、どうでもいいんです」
「…………」
「北の村で起きたこと、聞きました。どうしてそんな、酷いことを…」
「私も今、初めて知った」
「え?」
意外な言葉にテオが首を傾げると、リュイスは治療を諦めて溜息を吐いた。
「この部屋に地図はあるか」
「あ…はい、あります」
「どこだ」
テオが指さす先を振り返り、リュイスは本棚の方へ歩いていく。わけもわからず見つめているテオの視線の先で、目当ての地図を取り出したリュイスは、それを開き睨むように見つめながら戻ってきた。
「北にある山間部の村…ここか」
「リュイス様…?」
「なるほどな。あの馬鹿、性懲りもなく愚かな真似を」
静かな怒りを込めた声で、独り言のように呟くリュイスを、テオは呆然として見つめる。
今のセリフはまるで、小さな村で起きた惨劇の首謀者を、憎んでいるように聞こえた。
首謀者は第二王子のはずだ。リュイスはその仲間なのに。
「よく聞こえなかったんだが、ここで何人死んだって?」
「確か126人とか…村人全員が犠牲になったと仰っていました」
「犠牲ね…なんの犠牲だか」
ちっ、と舌打ちをしたリュイスはベッドサイドのテーブルに地図を放り出すと、いきなりテオを抱きしめた。
「リュ、リュイス様」
「…今更、起きてしまったことを嘆いても仕方ない」
「そんなっ」