「だったらどうする。泣き喚けば村人たちが生き返るのか?どんな強大な魔力でも、失われた魂を呼び戻すことなど出来ない。終わってしまった悲劇は、受け入れるしかないんだ」
冷たく言い放つくせに、リュイスは何かを耐えるように、きつくテオを抱きしめている。強い力で腕の中に閉じ込められ、テオはそれ以上、何を尋ねたらいいのかわからなくなってしまった。
仕方ない、受け入れるしかないと言いながら、リュイスの声は酷く後悔しているように聞こえる。その言葉がどこへ向かうのか、わからないけど。
でも愛しい人が傷ついているのは、確かなこと。
「…会いたかった、リュイス様」
労わるように囁いて、テオはリュイスに頬を摺り寄せた。
「テオ…」
「僕の傷を治すために、危険を冒してここまで来てくれたんですか?…でももう、ほとんど治ってるんです。お医者様にも治りが早いって、呆れられてしまいました」
「…………」
「ずっと伏せっていたのは、もう貴方に会えないのかと思って、それが悲しくて…軍人失格ですね」
「…そんなことはないさ」
ゆっくり腕を解き、テオの顔を見つめたリュイスは息を吐きながら口付ける。甘い舌先に唇をつつかれて、テオは薄くそこを開いた。
「ぁ…ん、ふ…んん」
「テオ…っ、テオ…」
ときどきテオの名を囁きながら、リュイスは熱い舌でテオの口腔を翻弄する。一生懸命応えながら、テオは胸の奥でクリスティンに詫びていた。
―――ごめんなさい…ごめんなさい、クリスティン様…
貴方に忠誠を誓い、全てをかけて貴方を護りたいと思っているのは本当だ。クリスティンのためになるなら、近衛師団に戻っても構わない。
それでも、リュイスを忘れることだけは出来そうにないのだ。
たとえ忘れようとしたって、次から次へとテオの中には、リュイスへの愛しさが生まれ、募っていくだろう。
ラスラリエの民を苦しめ続けている海賊たちへの憎しみと、その海賊の一員であるリュイスへの想いは、消して重なることのない、相反する気持ちだ。
このまま真逆の感情を持ち続ければ、テオはどんどん苦しむことになるかもしれない。きっといつか、どちらかを選ばなければならない時が来るのだろう。
最後の選択を突きつけられる、その時。
テオはもう一度クリスティンを選び、泣きながらリュイスを切り捨てる。
でもそれは、今じゃないと信じたい。
―――僕はいま、この想いを忘れることなんか出来ないんです、クリスティン様…