【Lluis×TheoF】 P:11


「これ…」
「身に着けていては、危険を招くこともあるだろう。部屋のどこかに隠しておくといい」
「僕がいただいてもいいんですか?大切にされていたのに」

 戸惑うテオの言葉を聞いて、リュイスは楽しげに微笑んだ。まるでイタズラを思いついたときのように。

「いいんだよ」
「でも…」
「いいんだ。私に必要なのは、これだけだから」

 リュイスはペンダントの下の方に触れ、力を入れる。
 カチ、と小さな音がして、二つに割れるような形でペンダントが開いた。

「必要なのは、これだけだ」

 中から転がり落ちた小さな石を拾ったリュイスは、愛しげに唇を寄せる。首を傾げて中に入っていたものを見ていたテオは、それが何かわかって目を見開いた。

「それ…!」
「覚えているかい?」
「まさか、リュイス様…それ」
「綺麗だろう?私の瞳のように」

 リュイスの手のひらに乗っている、小さな緑色の石。それは、宝石でもなんでもない、ただの石だ。
 鉱石としてはなんの価値もなく、見た目が綺麗なだけで、探せばどこにでもあるもの。
 でもテオは、それを覚えている。
 幼い日に見つけたときの感動も……リュイスに渡したときの、凍えるように寒かった日の情景も。
 
 
 
 長く生きる賢護石にとって、誕生日というものにはあまり意味がない。公表されることも、祝うこともないのが通常だ。
 賢護五石にはそれぞれ、誕生日とは別に各々の功績を称える日があり、盛大な祝典が催される。だからこそ、個々の誕生日は本人さえ忘れてしまうようなもの。

 ―――でもリュイス様がお生まれになったのは、今日なんでしょう?

 至極当然の顔で、幼いテオはリュイスにその石を差し出した。
 引き取られたばかりの頃だ。子供だったテオの自由になる金などあるはずがなく、何かを贈ろうにもどうしていいのかわからなかった。
 明日はリュイスの生まれた日だな、と何気に呟いたのは、同じ賢護石のレフだっただろうか。その言葉を聞いてから、テオは考えて考えて。ふとその石のことを思い出した。
 最初に見たとき、リュイスの瞳と同じ色だと思って、とても感動したのを覚えている。まだ児童保護施設にいた頃、他の子供たちと一緒に、近くの山まで行ったピクニック。山道を歩いていて出会った、小さな緑色の石。
 思い出した途端、テオは大人たちの手を振りきり、王宮を飛び出して何時間も山の中を探し回った。
 手にすることもなく通り過ぎただけの、一度だけ見かけた小さな存在を。

 それをようやく見つけたのは、日も暮れた暗い山の中。
 本当は、別の石だったかもしれない。