「これ…」
「身に着けていては、危険を招くこともあるだろう。部屋のどこかに隠しておくといい」
「僕がいただいてもいいんですか?大切にされていたのに」
戸惑うテオの言葉を聞いて、リュイスは楽しげに微笑んだ。まるでイタズラを思いついたときのように。
「いいんだよ」
「でも…」
「いいんだ。私に必要なのは、これだけだから」
リュイスはペンダントの下の方に触れ、力を入れる。
カチ、と小さな音がして、二つに割れるような形でペンダントが開いた。
「必要なのは、これだけだ」
中から転がり落ちた小さな石を拾ったリュイスは、愛しげに唇を寄せる。首を傾げて中に入っていたものを見ていたテオは、それが何かわかって目を見開いた。
「それ…!」
「覚えているかい?」
「まさか、リュイス様…それ」
「綺麗だろう?私の瞳のように」
リュイスの手のひらに乗っている、小さな緑色の石。それは、宝石でもなんでもない、ただの石だ。
鉱石としてはなんの価値もなく、見た目が綺麗なだけで、探せばどこにでもあるもの。
でもテオは、それを覚えている。
幼い日に見つけたときの感動も……リュイスに渡したときの、凍えるように寒かった日の情景も。
長く生きる賢護石にとって、誕生日というものにはあまり意味がない。公表されることも、祝うこともないのが通常だ。
賢護五石にはそれぞれ、誕生日とは別に各々の功績を称える日があり、盛大な祝典が催される。だからこそ、個々の誕生日は本人さえ忘れてしまうようなもの。
―――でもリュイス様がお生まれになったのは、今日なんでしょう?
至極当然の顔で、幼いテオはリュイスにその石を差し出した。
引き取られたばかりの頃だ。子供だったテオの自由になる金などあるはずがなく、何かを贈ろうにもどうしていいのかわからなかった。
明日はリュイスの生まれた日だな、と何気に呟いたのは、同じ賢護石のレフだっただろうか。その言葉を聞いてから、テオは考えて考えて。ふとその石のことを思い出した。
最初に見たとき、リュイスの瞳と同じ色だと思って、とても感動したのを覚えている。まだ児童保護施設にいた頃、他の子供たちと一緒に、近くの山まで行ったピクニック。山道を歩いていて出会った、小さな緑色の石。
思い出した途端、テオは大人たちの手を振りきり、王宮を飛び出して何時間も山の中を探し回った。
手にすることもなく通り過ぎただけの、一度だけ見かけた小さな存在を。
それをようやく見つけたのは、日も暮れた暗い山の中。
本当は、別の石だったかもしれない。