「…素敵ですね」
「ああ」
「僕、貴方と一緒にいられるなら、どこでもいいです」
「決まりだな」
「はい」
涙が止まらなかった。
闇に浮かぶ月が、天頂にある間だけの、短いまぼろし。
寂しがるテオのために、いつも意地悪なリュイスが、精一杯の優しさを注いでくれている。だからテオも、何一つ否定しなかった。
「リュイス様、大陸へ行った事があるんですか?」
「何度かね…怖いか?」
「全然。リュイス様と一緒なら、何も怖くないです」
「そうか」
努めて明るい声を出すテオが、泣いているのを知っているのだろう。リュイスは鼓動を刻むかのように、ゆっくり背中を撫でている。テオも甘えて頬を摺り寄せた。
「…貴方がいれば、何でも平気。リュイス様が、僕を強くしてくれる」
「テオ…」
「昔も、今も。ねえリュイス様…僕、今でも忘れられないんです」
「ん?」
「貴方と初めて会った時のこと。あんまりにも綺麗で、幻かと思った…」
母はずっと幼い頃に亡くしていた。ただ一人の家族だった父も、戦いの中でリュイスを庇い死んだ。
見ず知らずの親戚が、せっせと葬儀の準備を整えていた。父を慕う王国軍の人々も来ていたが、家族の全てを亡くしてしまった幼い子供に、誰も掛ける言葉を持たなかった。
ただ父の棺のそばに、ぼんやり座っていたのを覚えている。
色とりどりの花で飾られた父の肖像を、事態を理解できずに見ていた。
もう優しかった父は戻ってこない。その事実を心や頭で正確に理解できるほど、テオは成長していなかったから。
そこへ腕いっぱいに花を抱えて現れた、美しい人。
緑色に輝く長い髪をなびかせ、不機嫌そうな、悔しそうな表情をしている背の高い男。
周囲の大人たちが驚いて「リュイス様」と口々に彼を呼んだ。
棺の傍らにいたテオは、彼の小さな罵りを聞いていた、唯一の人間だ。
―――誰が勝手に死んでいいと言ったんだ。馬鹿め。…私の代わりはすぐに生まれるが、お前の代わりはいないんだぞ。
本当に腹を立てている声。思わずテオは「ごめんなさい」と呟いてしまった。
初めてそこに子供がいたことに気づき、驚いた表情で自分を見下ろした、深い緑の瞳。
「宝石みたいな瞳だと思ったんです」
「テオ…」
「今も変わらず、そう思ってる…リュイス様、大好き」
まだ睫を濡らしたまま、テオはにこりと笑った。リュイスは何かに驚いて目を見開き、苦しげに眉を寄せると、強くテオの身体をかき抱く。
「あっ、ん!ああっ」