「…待っていても、いいんですね…?」
「もちろんだ」
「リュイス様…」
「テオ。お前はここにいて、自分の目で真実を見極めなさい」
テオの手を握ったまま、リュイスはゆっくり立ち上がる。
「誰の言葉にも耳を貸すな。…私の言葉にも、クリスの言葉にもだ」
「リュイス様」
「お前がその目で見たことだけが真実。お前だけの、ただひとつの真実なのだから」
ぎゅっと強く手を握られ、テオははっきり頷いた。
「わかりました」
「ああ」
「何者にも惑わされず、僕は僕だけの真実を見つけます」
「いい子だ」
テオの額に口付けたリュイスは、逡巡のあと、唇を噛みしめた。手を握る力が強くなっていく。
「…じゃあな、テオ」
「っ…はい」
黙って見つめ合いながら、一歩二歩と下がっていく。リュイスは握り合った手が繋ぎとめられない距離になってようやく、指を解いた。
素早く踵を返し、何かを振り切るような速さで部屋を突っ切って、自分の寝室に続く扉に手をかける。
そこで彼は、一瞬足を止めたけど。
結局振り返りはせずに、扉を開けて身体を滑り込ませた。
どこか、王宮の外へ続く道があるというリュイスの寝室。ひそかに隠された道のありかを、テオは聞かないままだ。
何も言わずに、リュイスの後ろ姿を見つめ続ける。
振り返って欲しかった。
振り返らないで欲しかった。
どちらが本当の気持ちかわからない。だって、離れていることを決めてしまった以上、どんな選択も苦しいだけだ。
また会える。
会いに来てくれると信じている。
それでも、ぱたん、と小さな音がして扉が閉まったとき、テオは掛け布を跳ね除けてベッドを飛び降りていた。
「リュイス様!」
愛しい人の名を叫び、ふらつく身体を叱咤して、彼の消えた扉へ走る。向こう側から鍵を掛けていったのか、その扉は開かない。
何度かガチャガチャと、力の限りそこを開こうとして。テオはついに膝を付いた。
「やだ…リュイス様、行かないで…」
リュイスの前ではけして声に出さなかった言葉。帰っては来ないとわかっているからこそ止まらない。
この別れは、再会のためのものだ。
リュイスは会いに来ると言ってくれた。テオもそれを信じている。
なのに我が身を灼かれるような孤独感が辛くて、感情を制御できない。
「行かないで、戻ってきて…っ!リュイス様…リュイス様…」