【Will x Leff @】 P:06


 
 
 
 広大な敷地を誇るラスラリエ王宮には、東西南北それぞれに門がある。
 全ての門の衛兵に確認を取るよう指示を出し、レフ自身は一度自室に戻って、雨避けの外套を身に纏っていた。
 当然だが、王宮への人の出入りは厳しく管理されている。確認は取っているものの、こんな嵐の夜に子供が尋ねてくれば、すでに報告が入っているだろう。
 手早く身支度を整え、部屋を飛び出したレフは、そのまま厩舎へ向かった。
 事態は急を要する。
 子供が一人で出歩く時間はとおに過ぎていた。その上、この嵐では。
 焦る気持ちを抑え、捜索隊をどうするか考えながら走る。
 何が起こるかわからない状況だ。出来るだけ魔力は温存しておくべきだろう。
 もっとも人探しとなったら、自分の魔力などまるで役に立たない。こうなると紫の賢護石の不在が、どうしても悔やまれる。

 アルダが急逝したのは、先年のことだ。
 その魔力ゆえに、大抵は自分で死期を決める賢護石。しかしそれも、絶対ではない。
 彼女は紫の賢護石でありながら、慣れぬ戦いの中で命を落としてしまった。
 新しい紫の賢護石が生まれたことは確認されている。しかしあまりに唐突な事態で、幼い賢護石は強大な魔力と記憶を受け止めきれず、今も生家で療養中だ。

 厩舎が近づいてくると、中で何人かの兵士に囲まれている、長身の人影が見えた。松明のあかりに揺れる、プラチナグリーンの長い髪。

「リュイス!」

 男の名を呼びながら駆け込むと、深い緑の瞳がレフを見つけ、にやりと口元を吊り上げた。緑の賢護石リュイスだ。

「オコサマが出かける時間じゃないぞ」
「誰がオコサマだ。フザケている場合か!」
「わかっている。ベルマンの息子が行方不明だって?」
「ああ。兵士たちを貸してくれ」
「イヤだね」
「リュイス!」
「捜索なら、私の方が長けている。…私の組織する捜索隊に、アンタが参加するんだ。いいな?」

 所属の違う黄の賢護石では、兵士たちをまとめることが難しい。確かに元帥の任を担うリュイスこそ、この場合は適任だろう。
 気を使わせないためにこんな言い方しているのだと、すぐに気付いた。
 嫌味なことを言っていても、リュイスの長い髪はすでに雨に濡れていて、自ら役に立ちそうな兵士を選抜するため、駆け回ってくれたのだとわかる。
 レフは困った顔で、小さく笑った。

「緑の賢護石は、いつの時代もひねくれているな」
「可愛いだろう?」
「はいはい可愛い可愛い」
「なんだよ。そんな言い方してると、おじいちゃんって呼ぶぞ」

 見た目だけならリュイスの方が大人なようだが、実際は二番目に新しい賢護石のリュイスより、赤の賢護石に次ぐ古参であるレフの方が、ずっと在籍期間は長い。
 反論に肩を竦めて応え、レフはリュイスの指示を待った。

「では私と第二小隊の者は、王宮周辺と市街地を探索する。レフはベルマンの家を確認に行ってくれ。オーベリ」

 リュイスの呼びかけに、一人の兵士が進み出た。ベルマンと変わらない年齢の男には、見覚えがある。数少ない、リュイスが心から信用している側近の一人だ。

「知っていると思うが、こいつはカール・オーベリ。役に立つ男だ。連れて行け」
「わかった。よろしく頼む」
「お願いいたします、レフ様」