落ち着いた声には、子供らしからぬ重さがあって。レフは苦しげに眉を寄せた。
「…そうか」
泣きそうに歪んでいく、少年のような賢護石の瞳。父に何を聞かされたって、ウィルトの中でレフは、華奢な肢体の、そして鮮やかに美しい髪色の、優しい人でしかない。
よくそうしてもらったように、繋いだ手をぎゅっと強く握りなおす。レフは驚いたようにその手を見つめ、ウィルトに視線を戻した。
「オレは母さんのようには、ならない」
「ウィル…?」
「自分の弱さに負けたりしない。どんなに悲しい思いをしても、貴方を責めたりしないから」
「あ…」
「貴方のそばを離れない。…絶対だ」
きっぱりと言い放つ。
呆然としているレフを、彼は真剣な眼差しで見つめていた。
子供のたわ言というには、あまりにも情熱的な言葉。
離れない、ともう一度繰り返される。
大人びたウィルトの視線に、少しうろたえて。しかしレフは微笑んだ。
「ああ、わかった」
明るい太陽の日差しを、レフの金色の髪が跳ね返している。手を繋いだ少年が、眩しそうにそれを見つめる。
アメリアを愛して良かったと、レフはこのとき初めて思った。
彼女がどんなに優しくて素晴らしい女性だったのか、目の前の少年が教えてくれている。
アメリアを愛して良かった。ベルマンがアメリアを愛してくれて良かった。
辛いことはたくさんあったが、何も間違ってなどいなかった。だって、全てがあったからこそ、ウィルトがレフの前にいる。
小さな身体でレフの痛みを受け止め、包み込んでくれている。
縋っていた杖を父に預け、ウィルトは自力で半歩、レフに近づいた。ぐらりと傾いだ身体を、慌てて受け止めてやる。
そうしたら、少年はぎゅっとレフに抱きついたのだ。
「ずっとそばにいるよ。レフ、大好き」
嬉しそうな呟き。小柄な黄の賢護石は、少年の身体をぎゅっと抱きしめ、きれいな笑顔で頷いた。
《ツヅク》