【Will x Leff A】 P:11


 行くぞ!と宣言したかと思ったら、レフの腕を掴んで大股に歩き出す。
 もちろんレフは暴れて抵抗したが、こうも体躯が違っていたら、長く逆らえるはずもなくて。あっさり西館から連れ出され、今は季節の花が咲き誇る王妃の庭を横断中だ。

「ベルマンが迎えに来るならわかるが、なんだってお前なんだっ」
「ベルマン相手じゃ、アンタが逃げるからだろうが」
「関係ないだろう、お前にはっ」
「そうはいかないんだよ。ウィルトに約束したからな」
「ウィルに?」
「あいつ、餞別に何かくれてやるって言ったら、お前に会いたいと言いやがった。この緑の賢護石サマが、何でもやるって言ってやったのに。
どんなものより、ひと目お前に会う方がいいんだとさ
「だからって!」
「まあタダより安いモノはないし。この際、アンタのド暗い考えなんか、後回しだ」
「リュイス!」

 自分を迎えに来たのが、ウィルトの意向だと知って、余計にレフは足を止めようとするけど。
その気になっているリュイスが許してくれるはずもなく、ついに正面門が見えてきてしまった。

 ケンカでもしているような様子の二人の賢護石が近づいてくる。
 ベルマン親子を囲んでいた見送りの人々は、それを見て深く頭を下げ、身を引いた。

「ったく、世話の焼けるオコサマだな」
「誰がオコサマだ!」
「やってることはオコサマだろうがっ」

 どんっ!と強く背中を押される。誰もいない空間に放り出されたレフの目の前に、ウィルトが立っていた。

「っ…!」

 正面から受け止めなければとわかっているのに、思わず視線を伏せてしまう。
 伏せた視界に入り込んできたウィルトは、動かない右足を支えるため、身の丈ほどもある杖に縋っていた。
 顔を上げられない。
 自分のせいで運命を狂わせてしまった幼い子供に、何を言えばいいのかわからない。
 しかし黙り込んで俯いているレフに、ウィルトの方が一歩近づいた。

「…うそつき」

 ぼそっと詰る幼い声。レフは唇を噛んで、覚悟を決め、顔を上げる。
 責められて当然なのだから。彼の非難を、受け止めてやらなければ。
 決死の思いで顔を上げたが、
レフを見上げるウィルトの顔には、憎悪のカケラもなかった。

「ウィルト…?」

 呆然と名を呼ぶ。
 ウィルトは憎んでいるでも怒っているでもなく、拗ねた表情でレフを見ていた。

「オレが家に帰れるようになるまで、ずっと一緒にいてくれるって言ったのに」
「それは、その」
「ご飯も作ってくれるって、言ったのに」

 唇を尖らせてむくれている。彼にとって、レフの後悔や贖罪よりも、小さな約束の方がずっと大切なのだ。

「リュイス様は、ちゃんと約束、守ってくれたよ」
「…すまない。確かに私は、君との約束を破ってしまった」
「うん」

 うな垂れるレフの手を、ウィルトが掴む。
 臥(フ)せっている間、レフはよくこうして、彼の手を取っていたけど。ウィルトの方からレフの手を取るのは初めてだ。
 掴まれた手は、生死をさ迷った子供のものだとは思えないくらい、力強いものだった。

「ウィル…」
「全部、聞いたから」

 母とレフの経緯。賢護石という立場。レフの抱えている後悔の意味も。