【Will x Leff B】 P:09


 眉を寄せて考え込むウィルを見つめていたクリスティンは、何度か長いまつげをぱちぱちさせて。可笑しそうに目を細めた。

「ありがとうございます」
「ん?…うん。どういたしまして?」
「はい」
「そこ、ありがとうって。なんか変じゃないか?」
「そんなことありません。私は親しい友人がいないので、本当に嬉しいです」

 疑いようもないくらい、嬉しそうな顔。僅かに頬を紅潮させ、アイスブルーの瞳がウィルを映している。嘘のないクリスティンの笑顔に、ウィルも頬を綻ばせた。

「それは良かった」
「はい」
「でもさ、お前ほんとに友達いないの?」
「そうですね…友達、という役割の者は、何人かいるんですけどね」
「役割?…なんだそれ。全然楽しくなさそうだな」

 意味深なクリスティンの言葉に、ウィルはにやりと口元を歪めた。
 大好きなレフのいる王宮だが、賢護石たちの住んでいる西館以外が、あまり面白い場所ではないのは知っている。クリスティンにもわかっているのだろう。明言は避けて、ふふっと小さく笑っていた。

「ではウィル、私のこともどうか、クリスと呼んで下さい」
「みんなはそう呼ぶんだ?」
「はい。と言っても、家族の他は賢護五石くらいですけどね」
「じゃあレフも?!」

 途端に顔を輝かせるウィルを見たクリスティン……クリスは、驚いた表情でぽかんと口を開けた。しかしすぐに、肩を震わせ笑い出す。

「なるほど、あの話は本当なんですね」
「え?」
「貴方がレフに会うたび、
毎回好きだと伝えている話です。女官達の間でも噂になっているので」
「あ〜…それ、な。陛下の耳にも入ってるんだろ?レフに怒られた。ひょっとしてお前も聞いてたの?」
「はい」
「そんなに変なことかなあ…オレはレフが好きだから、そう言ってるだけなんだけど。リュイス様が面白い面白いって、やけにからかってくるんだよな」

 納得がいかない、とむくれるウィルを、クリスは苦笑いで見守っている。

「私は貴方の素直さが、とても羨ましいと思います」
「難しいことじゃないだろ。言えばいいんだよ、お前も。好きなら好きって。いないの?好きな奴」
「…さて、どうでしょうか」

 謎めいた顔で微笑むクリスには、誰か思い当たる相手がいるのかもしれないけど。彼の立場を思うと、自分と同じように正直な言葉を口にするのは難しいかもしれない。

 友達だけど、皇太子殿下だから。
 自分と同い年なのに、親しみを込めてクリスと呼ぶ人すら、ほとんどいないと言っていた。彼はさっきしていたように、大人と対等に渡り合う必要がある立場なのだ。

 ―――大変なんだろうな、きっと。

 何が、と具体的にはわからなくたって。ウィルはクリスの心情を思い、ちょっとだけ顔を顰めた。

「では今日も、レフに会うために王宮へ?」
「うん。なかなか会ってくれないから、忍び込んだんだ。いつもいつも、忙しいって言って追い返すから」
「残念ですが今日は、本当にいらっしゃいませんよ」
「え…そうなのか?」
「はい。青の賢護石と共に、南の海へ視察に出ていらっしゃいますから。お帰りなるのは夜半になるかと思います」
「なんだ…そっか」

 では自分は、いもしない相手に会おうとして、うっかり命まで落しかけたのか。