【Will x Leff E】 P:02


「ウィルだよ。来月から大学だと聞いたんで、祝いに何かやるって言ったんだが。あいつまた『レフが自分のために時間を割いてくれるよう、協力してくれ』って言いやがった」

 全然成長してやがらねえ、とリュイスはにやにや笑っている。
 レフはしかし、彼の言葉に大きく目を見開いた。

「怪我の療養から帰るときも、同じようなこと言ってただろ、あいつ。何もいらないからレフを連れて来てくれってな。どうせすぐ飽きると思ってたのに…なんだかんだと続くもんだな」

 こんなオコサマの何がいいんだ?と。からかうつもりでいたリュイスは、驚きを隠せないでいるレフを見て、首を傾げプラチナグリーンの髪をかきあげた。

「どうした、そんな驚いて。いつものことじゃないか」
「…大学?ウィルが?」
「なんだ、聞いてないのか?来月からは本格的に医学を学ぶため、大学へ移るらしいぞ」

 リュイスの口にした大学名は、この王都にあるラスラリエ最高学府だ。
 濃い金色の瞳が、より大きく見開かれる。

「あの子はまだ十歳だろう?」
「あの子って…いまだにウィルをそんな呼び方してんの、アンタだけじゃないか?」
「十歳は子供だ」
「コドモの外見で言われてもな」
「何だと?!」
「まあまあ。…確かに十歳での進学は最年少だが、別に不思議じゃないだろ。あいつは同じ教師に、一年以上ついたことがないし。こうなることは、予測の範囲内じゃないか?」

 ラスラリエの学校では、基本的に一年間、同じ教師の下で同世代の生徒達と共に学ぶ。稀に世代を乗り越え、才能に合った年齢の者の教室へ移る子供もいるが、一年おきに試験を受けるはずだ。
 確かにウィルトとは、そういう話をしないけど。リュイスの口から聞かされるのは、レフの知らないことばかり。
 途端にむすっとした表情になる。
 毎日のように自分の元を訪れておきながら、大事なことは何も話さないなんて。これでは本格的に、クリスのついでにされていると考えた方がいいのかもしれない。
 あからさまに機嫌を悪くしているレフを見て、リュイスが笑い出した。

「あははは!仕方ないだろ、アンタの場合」
「どう仕方ないんだっ」
「ほら、そうやって。周囲がウィルの話をすれば、すぐ眉間にしわを寄せるじゃないか。誰も言えなかったんだろ?アンタに怒られるのが怖くてさ」

 リュイスの言う通り。レフは自分の前でウィルトの話題が出るのを、極端に嫌う。
 自覚しているものの、やっぱり納得いかなくて、ぷいっと顔を背けた。
 そうかもしれないが、だからと言って、ウィルト自身が話さない言い訳にはならないだろう。

「…別に、怒ってなどいない」
「アンタは知らないだろうけど、ウィルの事は王宮で、たびたび噂になるんだ。また教室が変わったとか、大人を論破したとか。教師にくだらない嫌味を言われて、三倍返しにしたとかな」
「………」
「だから私も、大学のことは直接ウィルに聞いたんじゃない。女官達が噂してるのを聞いたから、本人を捕まえて確かめたんだ。まあ話してみれば、
相変わらずあいつの口から出るのは、アンタの事ばっかりだったがね」

 可笑しさを堪えられないらしく、口元に手を当て肩を震わせるという、失礼極まりない態度でリュイスはレフの元を去っていった。
 
とりあえず考えるのは止めて、仕事に戻ろうとペンを執ったが、イライラした気持ちが収まる様子もなくて。レフはとうとう、それを放り出してしまった。