それからも、やっぱりウィルトは変わらぬ様子で、三日と空けずにレフの元へやって来るのだ。
少し足を引きずって、しかしいつも柔らかい笑みを浮かべて。
「何の用だ」
今日も今日とて、相変わらずの来訪。西館の厨房に顔を出したウィルトは「見つけた」と嬉しそうに笑っていた。
最近はそんな顔を見るだけで、苛立ちが募っていく。だからレフは、今まで以上に冷たい態度で突っぱねる。
しかし彼は、全く意に介さない。
「レフの顔を見に来たんだよ」
懲りないウィルトから、いつも通りの答えが返ってきた。それが余計、癪に障る。
「もう見ただろ。帰れ」
「じゃあ、声を聞きに来た」
「聞いてるじゃないか」
「ん〜…だったらオレの名前を呼んで欲しくて、とか?」
「ウィル、ウィルト、ウィルト・ベルマン」
「…ぷっ、あははは!やっすいなあ、オレの名前。そんな邪険にしなくてもいいじゃん。どうしたんだよ、らしくないね。…何かあった?」
顔を覗きこまれ、レフは無言でウィルトに背を向けた。
いまだにウィルトからは、大学の話が出てこない。リュイスにその話を聞いて、もう十日も経とうというのに。
あれからウィルトに会うのは四回目。いつもいつも、彼が話すのはどうでもいいことばかりだ。いい加減、黙って待っているレフの方が限界で。
厨房にいたレフは、手にした大きなイモを投げつけてやった。
「おっと…危ないなあ。なに?」
「皮むき」
「コレを?」
「そこにあるのを、全部剥いて帰れ」
レフが指さしたのは、大きな麻袋に入った何十個というイモの山だ。呆れた顔でそれを見つめたウィルトは、小さく笑って作業用のイスを引き寄せた。
「剥くのは全然いいけど、八つ当たりの原因は教えてくれないわけ?」
「誰が八つ当たりだ」
「まあ、別に。レフが他の誰でもなく、オレに八つ当たりしてくれるんなら。それはそれで、嬉しいんだけどね」
「だから八つ当たりなどではないと言っている!」
「じゃあ、何に使うんだよ。一度にこんなたくさん、イモの皮剥いて?」
聞き返されて、レフは言葉に詰まってしまった。咄嗟の行動だっただけに、言い訳も出てこない。
「それは…だから…」
「だから?」
「つ、使うんだ!そう、今日の夕飯に使うんだよ!他に理由なんかないだろっ」
「こんなたくさん、ねえ?」
「文句があるのか?!」
「ないない。この量だと、今日は一日レフと一緒にいられるしね」
むしろ嬉しそうに言って、ウィルトは自ら水桶を用意し、ナイフを受け取り、黙々と皮むきを始める。
ウィルトの作業を眺めながら、レフは密かに頭を抱えていた。勢いで言ってしまったこととはいえ、我ながらあんなにもたくさんのイモを、何に使おうというのか。
考えている間にも、水桶の中には皮むきの済んだイモが、ごろごろと溜まっていく。記憶の中のレシピを探りながら、その様子をじっと見つめていた。
「…器用なもんだろ?」
ふいに声をかけられて、レフははっと顔を上げた。