「絶対行く。行くったら行く。連れて行け」
「お前さあ…」
「連れて行ってくれないなら、王宮を抜け出して一人で行く」
「そんなことさせられるかっ!」
「大丈夫だって。俺もう、大人だし」
「誰が大人だよ!十一歳にもなってナニ聞き分けのないこと言ってんだ?!」
「ウィルが俺の歳には、もう大学へ行ってたじゃないか。町くらい俺一人でも行ける」
「アルム…ほんと頼むから、怖いこと言わないでくれ。そんなことされたら、オレが侍従長のジャン様に殺される」
「だったら連れて行け」
にやりと笑うアルム。頭を抱えるウィル。
その場にクリスはいなかった。もうどうしようもない。
ワガママな彼に言うことを聞かせられるのは、この場にいないクリスだけなのだ。
大体、緑の賢護石(ケンゴセキ)リュイスに相談したのが、そもそもの間違いだった。
何が欲しいか聞かれて、レフと一緒に過ごす時間が欲しいと答えるとき。いちいちからかってくるものの、リュイスはいつも望みを叶えてくれていたから。
どうしても一緒に行きたいところがあるので、どうすればレフを誘うことが出来るのか。なんと言えば彼が自分の為に時間を割いてくれるのか……きっとリュイスなら、答えを知っていると思って。ウィルはリュイスのからかいを覚悟の上で、相談を持ちかけた。
まさかそれをアルムに聞かれてしまうなんて、思いもせずに。
―――丁度いい口実が出来たじゃないか。
にやにや笑っていたリュイス。
二人きりでなければ意味がないことくらい、わかっているだろうに。
焦るウィルを完全に無視して、リュイスは事の次第をアルムにバラしてしまうし。それを聞いたアルムは、言い訳の隙も与えず、その気になってしまった。
……リュイスに相談なんか、するんじゃなかったと。今さら後悔しても、もう遅い。
がしっとアルムの首に腕を回した。
日に日に身長の伸びているウィルにこうされたら、いくら彼の足が悪くたって、アルムはまだ振りほどけない。
「何すんだよっ」
「もういい、わかった。計画は変更だ」
「痛い!痛いって離せよウィル!どこ行くんだっ」
「うっさい黙れ!クリスにバレたら絶対に行けないんだぞっ」
ずるずると引きずられながら、アルムはぴたりと黙ってしまう。よほどクリスに知られたくないのだろう。
西回廊にいた二人は、そのままの状態で賢護石の住む西館に向かった。行き着く先はレフのいる厨房。
疲れた顔でアルムを引きずって行くと、レフは呆れて二人を迎えた。
「なんだ、お前たち?」
「アルムにバレた」
「はあ?」
「祭だよ。アンタを誘う前に、町で祭りがあるとバレたんだ。…この聞き分けのない王子様を、どうにかして下さい」
わけがわからず、首を傾げているレフ。すっかりふくれっ面になっているアルムは、それでもまだ「行くからな」と、執拗に訴えていた。
今日の王都ショアには中央通に人が溢れ、ずらっと並ぶ露店の先が見えないほどだ。
まだあまり国民に顔を知られていないアルムは、ウィルが用意した庶民の格好で、雑踏に紛れている。