【Will x Leff G】 P:02


 母親に嫉妬なんて、馬鹿げている。だけどこの人でも、レフのそばにいることはできなかった。
 母でさえ。
 だったら……自分なんか。

「出来たわよ、ウィル」
「ありがと。王宮、行ってくる」
「大丈夫なの?」
「平気平気。父さんには適当に言っといて」

 腰を上げたウィルは、母の作った木の実の菓子を手に、家を出た。
 外はもう夕暮れ。騒々しかった祭の人々も、まばらになっている。片づけを始める露店を横目に、ウィルは王宮に向かって歩いていた。
 
 
 
「遅いぞっ!何してたんだ?!」

 西館に入るなり、リュイスの怒号が飛んでくる。ここへ来るまでに「リュイス様がずっと待ってらして…お怒りですよ」と。案内をしてくれた侍従の男から聞いていたので、ウィルは苦笑いを浮かべ、あらかじめ用意していた答えを口にした。

「申し訳ありません。気付いたら、つい寝込んでいて」
「だからってなあ」
「リュイス」
「せっかく皆お前を待って…」
「リュイス!…もういい、やめなさい」

 赤の賢護石(ケンゴセキ)に止められて、リュイスは渋々口を閉じる。代わりに強い力で、がしがしと頭を撫で回された。
 広間で待っていてくれたのは、リュイスだけではない。賢護五石(ケンゴゴセキ)をまとめる赤の賢護石ディノの姿もある。
 深く頭を下げるウィルに、赤い瞳が優しく笑いかけてくれた。

「世話になったな、ウィルト」
「いえ、私は何も…」
「謙遜することはない。お前のおかげだ」
「ディノ様」
「お前がレフの命を繋いでいてくれたからこそ、リュイスが間に合った。紫の賢護石が不在の今、レフまで失うわけにはいかない」
「………」
「赤の賢護石として、礼を言わせてくれ。本当に感謝している」
「いいえ…私は、自分に出来ることをしただけです」

 首を振って答えるウィルの顔を、隣にいたリュイスが覗きこんだ。

「いつもの生意気な態度はどうした。ディノだけ特別扱いか?」
「…特別な方を、特別扱いするだけですよ」
「おい、私が特別じゃないとでも言うつもりか?」
「リュイス様は…今さら。ねえ?」
「本当に可愛くないガキだなっ!」

 首に腕を回し、締めつける素振りを見せながらも、リュイスは満足そうに笑っている。

「今日のところは許してやるが、私だって賢護石サマなんだぞ?きちっと敬え」
「じゃあまあ、そのうち」
「やっと調子が戻ってきたな。…さっきまでは陛下もお前を待っておられたんだ。自分からも礼を言いたいと仰って」
「オレのような者に、そんな恐れ多い」
「アーベルは昔からそういうヤツだ、気にするな。どうせ明日の公務が面倒で、お前を理由に逃げてるだけだろ」

 国王アーベルを「そういうヤツ」呼ばわりして、リュイスはウィルを伴ない歩き出す。

「もういいよな、ディノ。こいつをレフの所へ連れて行くぞ」
「ああ。そうしてやれ」
「失礼いたします」
「ウィルト、今夜は王宮に泊まっていってくれ。リュイスも言っていた通り、お前に会うまではアーベルが仕事をしなくて敵わん」

 困った顔で腕を組むディノに、ウィルは素直に頷いた。