【Will x Leff G】 P:04


「待て、こら!」
「…っ!ウィル、あとは任せた」
「任せたじゃない!とっととこっちへ来て、事情を説明しろ!お前、ウチの者たちに何を言ったんだっ」

 リュイスに向かって怒鳴るレフは、よほど気に入らないことがあるのか、眦を吊り上げている。
 背の高いリュイスが、さっとウィルの後ろに身を隠そうとするが、もちろん隠れられるはずもない。

「…なに?どうしたんですか」

 後ろを向いてリュイスに尋ねると、緑の賢護石はばつが悪そうに、そ知らぬ顔で天井を見上げて答えた。

「いや…な。お前も知っての通り、私の魔力は傷を塞いだり、病を治したりは出来るが、それ以上のことが出来ないだろ?」
「体力や食欲の回復ってことですか?…そうですね。クリスもそうだし」
「な?だから、レフにせめて今日くらいは安静にしてろって言うのに、聞かないんだよ」
「はあ」
「それで…その。黄の賢護石の侍従たちに、実はレフの身体はまだ治っていない、と」
「え?」
「外側の傷は治ったが、内臓はまだズタズタになっていて、私の魔力は明日にならないと回復しないから…今夜ベッドから立ち上がったら、命が危うい。なんてな」
「リュイス様…」
「それくらい言っておかないとな…あはは」
「アハハじゃない!貴様、余計なことを!」

 レフの声から逃れるように、リュイスは入ってきたばかりのドアに飛びついた。

「じゃあな、ウィル。お前の泊まる部屋はこの階に用意させておくから、ゆっくり話してレフの機嫌を取ってくれ」
「待て、こら!リュイス!!」
「おやすみ、二人とも。明日の朝食で!」

 言い捨てる勢いで早口に言うと、リュイスがばたんっ!とドアを閉めてしまう。苦笑いを浮かべながら、ウィルはレフの元へと歩いていった。

 怒りの収まらないレフに「まあまあ」と声をかけ、枕元のイスに腰掛ける。目が合った途端、金色の瞳はウィルから逸らされ、下を向いてしまった。

「…あいつは、本当に」
「レフを心配してるんだよ」
「だからといって、大げさな。私は侍従たちから涙ながらに寝ていてくれと訴えられて、起き上がるのもままならないんだぞ」
「でも、安静が必要なのは本当のことだ。まだ顔色悪いよ。横になった方がいい」

 ようやく顔を上げたレフは、静かに話しかけるウィルを見つめ、首を横に振った。

「私は大丈夫だ。お前の方こそ…酷い顔色だぞ」
「ん…まだちょっと、疲れてる」

 ウィルが素直にそう言って肩を竦めると、レフは眉を寄せた。

「…無理をさせたな」
「平気だって。もう痛みはないんだよね?」
「ああ」
「良かった」

 ため息混じりに呟いたウィルは、そうだった、と。手にしていた袋を、レフの上掛けに置いた。

「なんだ?」
「どうせレフのことだから、何も食べてないと思って。木の実の菓子」
「…買ってきたのか」
「違う。母さんの手づくり」
「え?」
「記憶が戻ったわけじゃないけど…かつてのアメリアから、最愛の黄の賢護石レフへ。心を込めた贈り物」
「ウィル」
「…なんて、ね」

 少し暗い顔で微笑みながら、ウィルは袋を開けた。中には小さな焼き菓子が、たくさん詰められている。