【Will x Leff G】 P:07


 クリスは毛布で包んだウィルの背中を、何度も撫でて。しばらくの間じっと黙ったまま、ウィルの葛藤を受け止めていてくれた。

「ウィル…こんなところに、貴方を一人置いては戻れない」
「………」
「でも西館へ帰れなんて、もっと言えないんです。…だから、一緒に来てくれますか?」

 小さく頷いたウィルが、ふらふらと立ち上がる。クリスがそんなウィルに手を貸してくれた。
 立ち上がったウィルは、クリスの手を断って。曖昧に頬を緩める。

「…いつもと逆だな」
「そうですね。でも、たまにはいいじゃないですか」
「ああ。ありがとう」

 誰もいない王宮を、二人は黙って歩いていく。クリスの私室の前には、いつもの老女官とは違い、不寝番の兵士が立っていた。
 ウィルの姿を見て眉を顰めたが、黙ってクリスに頭を下げ、扉を開けてくれる。
 中へ入ったウィルは、すぐに足を止めた。

「ウィル?」
「…アルムが」

 クリスのベッドには、アルムが身体を小さくして、丸くなっていた。そばへ近づいてみると、可哀相なくらい目蓋が腫れている。
 ウィルは苦しげに眉を寄せて、アルムの頬を撫でてやった。

「ごめんな、アルム…怖かったよな」

 どんな理由でも……たとえアルム自身が、強く望んだことでも。不用意にこの子を、王宮から連れ出すのではなかった。
 後悔を滲ませるウィルの背中を押して、クリスは窓際のイスへ導いてゆく。

「あの子が刺客に襲われたのは、初めてのことでしたから。寝付けないようだったので、ここへ呼んだんです」
「…すまない。オレの責任だ」

 首を横に振って、クリスはウィルを座らせた。
 苦渋の表情を浮かべるウィルの頬を、冷たい手が包む。まっすぐな視線が、強い光でその考えを否定した。

「問題を取り違えないで下さい。あの子が襲われたのは、彼が第二王子だからです。貴方に責任などあるはずがない。今回の事は、不穏分子を押さえられずにいる、我々王家の責任です」
「でもオレが、アルムを王宮から連れ出さなかったら…」
「貴方が連れ出さなかったら、王宮で襲われていたでしょう。少しばかり場所が違っていただけですよ。アルムはこれから何度でも、同じ目に遭います。私がそうであるように」
「…お前も?」
「ええ。病弱な私に不安を抱き、アルムを王位に就けようとする者は、貴方が思っている以上に多いんですよ」

 くすっと笑ったクリスは、痛みなど感じるまでもないほど軽く、何度かウィルの頬を叩いた。

「しっかりして下さい、ウィル。ちゃんと事実を受け止めて」
「………」
「アルムが襲われた現場に、たまたま貴方が居合わせた。それだけのことです。私はむしろ、貴方がいてくださって良かったと思っているんですから」
「オレが?」
「そうです。貴方はあの子に使命を与えてくれた。王宮へ戻り、リュイスを送り出すという使命を。…何度も言いますが、アルムは今後、数え切れないくらい同じ目に遭う。その度に泣いて蹲っているわけには、いかないのです」
「………」