【Will x Leff G】 P:10


「アルダ様は亡くなられた。レフは瀕死の傷を負った。オレたちは賢護石を喪う恐ろしさを知っている。…三度目は許されない」
「はい」
「黙って祈ってるほど、
オレは愁傷な性格じゃないんだ
「私もそうです」

 互いに頷き、思いの強さを知る。
 彼らはどちらも諦めが悪く、そして現実的な性格だ。祈る神を持たない二人にとって、己の手で切り開くことこそ全て。
 ウィルは窓の外に目を遣った。ここからは王の庭が一望できる。
 大好きなレフのいる、馴染み深い王宮。しかしここが、目に見えない魔窟だということを、ウィルは身に染みて知っている。

「オレは王宮内の政情に詳しくない。この中の人間関係で、お前以上のことが出来る奴なんか、いないだろうな」
「もちろんです。この檻の中で、貴方にしていただきたいことなど、ありません。ここは私の戦場ですから」
「ああ。庶民のオレでは、何をしようにも役に立たないだろうさ。だったら…オレは、お前に出来ないことやる」
「具体的には?」
「次に不測の事態が起こったとき、賢護五石の体は、オレが治す」

 ウィルの言葉が予想の範囲を超えていて、クリスは目を見開いた。

「賢護五石を…治す?」
「そうだ。緑の賢護石以外、賢護五石の治療が出来ないなんて、誰が決めた。そんなことオレは認めない」
「………」
「絶対に方法があるはずだ。緑の賢護石が到着するまでの、時間稼ぎなんかじゃない。もっと積極的に賢護五石を治療する方法が」

 振り返ったウィルは、思案げに腕を組み、自分の顎の辺りに触れている。
 言うだけなら簡単だ。しかしそれでは役に立たない。何かもっと自分の考えを証明できる、後ろ盾がなければ。

 じっと見守るクリスの前で、ウィルは持ちうる限りの知識を紐解いていた。
 これでもレフに思いを寄せて、十年近い時間が経っている。賢護五石に関する書物は、片っ端から読んできた。
 彼ら賢護五石の始まり。気が遠くなるほど長い歴史。その裏側にある、まだ知らないことは何かないのか。
 ふいにウィルは、顔を上げた。

「ラスラリエは戦いの果てに生まれた国。その当時は、最初の賢護五石も王家の始祖と共に、戦っていたんだよな?」
「そうです。始祖が擁護していたとはいえ、戦いの中心は魔族であり、賢護五石だった」
「だとしたら、常に五人が揃って戦っていたとは考えられない。それぞれが個別に…緑の賢護石と離れて戦うことも、少なくなかったはずだ」
「…確かに」
「ラスラリエの始祖と賢護石五は、大陸を追われ、この島へ逃げてきた。つまりは負け戦だったんだろう?責任感の強い賢護五石が、率先して戦っていたと考えるのが妥当だ」
「少なからず彼らも、傷を負っていたはず。なのに賢護五石は生き延びた」
「ああ。誰かが彼らの治療をしたからだ」
「ウィル」
「今はもう、誰も知らない方法で。緑の賢護石以外の者が、彼らの傷を治していた」

 願いが確信に変わる。
 ウィルはぎゅっと己の手を握り締める。

「絶対に、不可能じゃない」
「…その英知を取り戻すのは、大変なことですよ」
「言っただろ。オレは諦めが悪いんだ」