長い手足は衣装を纏っていてもわかるほど逞しく、彼が右足に障害を持っていることなど、もう誰もわからないだろう。
アーベルに促され、ウィルトは皇太子クリスティンと、第二王子アンゼルムの方を向いて、深く頭を下げる。
柔らかそうな髪色だけは変わらないのに、襟足にかかる後ろ髪にはどこか大人の色気があって、思わず目を逸らしたくなった。
顔を逸らさぬよう、必死になっているレフの前で、ウィルトは一人足りないままの、賢護五石を振り返る。
どきっと大きく心臓が跳ね上がって、動けなくなった。
「あ…」
思わず声が出てしまい、慌てて手で口を覆う。
視線が合ってしまった。幼い頃と変わらない、しかし全然違う瞳。父親に似た深い色は同じなのに、そこに浮かんだ強い光は、レフの知らないもの。
少し大きめの、形のいい唇が僅かに笑みを浮かべる。薄く開いたウィルトの唇から零れた言葉が何だったのか、レフは後になって考えても、やはり思い出せなかった。
右手を左胸にあて、静かに頭を下げる。
「化けたなあ…」
隣に立っていたリュイスが、周囲には聞こえないくらい小さな声で、感心したように呟いた。
整った男っぽい顔。ぎゅっと力強い眉。
丸みを帯びていた幼い頃の輪郭は、鋭く削げて凛々しく生まれ変わっている。
そう、生まれ変わっているという言葉が、一番相応しい。
レフの目の前にいる青年は、この三年で生まれ変わり、見知らぬ大人に成長していたのだ。
まだどこか、ふわふわした感覚のまま、レフは晩餐の席についていた。
一番上座に国王夫妻。左側に四人の賢護五石が並び、皇太子たっての希望で、右側には奥からクリス、ウィルト、アルムという、本当ならあってなはらない並びになっている。
レフは味もわからぬまま、ただ黙って料理を口に運んでいた。
どうしても視線がウィルトを追ってしまう。彼の一挙一動が気にかかり、どんな小さな言葉も逃すまいと、耳が勝手にウィルトの声を探している。
こんなはずじゃないのに。
まさかこんな、あの小さな子供だったウィルトの変貌に、これほど動揺させられるなんて。
リュイスのからかいも、青の賢護石ジャンが自分を心配する声も聞こえない。上の空でただ、ウィルトのことばかり見てしまう。
―――何をしているんだ私は…!
首を振るものの、ざわつく心は収まるどころか、どんどん落ち着きを失うのだ。
謁見から晩餐まで、ウィルトはまだ個人的にレフと言葉を交わさない。もちろん、こういう日は何かと忙しく、時間がないのは確かだけど。
まるでレフを、気にしていないかのような態度。最初はそれが腹立たしくて……ついにはなんだか、もういっそ苦しくさえなっていた。
ちくっと胸に走った痛みを、レフは懸命に飲み干した。
視線の先では、ウィルトがそうっとクリスに顔を近づけ、他の者には聞こえぬよう、何かを小さく囁いている。