【Will x Leff H】 P:08


 それを聞いたクリスが、可笑しそうに目を細め、口元に手をあてて肩を震わせた。近づいた時と同じくらい、そうっと離れていきながら、ウィルも満足そうな笑みを浮かべている。
 仲睦まじい姿。親友というには、あまりにも親密な様子。そんな彼らを国王夫妻は、微笑ましく見つめていた。

「本当に仲が良いのね、クリス」
「ええ、そうですね。彼には幼い頃から、たくさんのことを教えていただきました」
「その分、私は侍従長のジャン様に叱られることも、少なくありませんでしたよ」
「お前が余計なことまで教えるからだ。私はクリスが裁縫をしている姿を見た時など、気を失うかと思ったぞ」
「まあ。クリス、お裁縫が出来るの?」
「簡単なことだけですよ。昔、彼が私の取れた釦(ボタン)を、付け直してくれたことがあったんです。それがあまりに器用で、面白そうだったので」
「女官長が飛んできて、やめてくれと涙ながらに訴えておられました」
「あらあら」
「ほう…クリスは釦が付けられるのか。そんなに簡単なのか?…私はしたことがないなあ」
「陛下っ!貴方はしなくていいんですっ」

 和やかにすすむ晩餐。
 ずっと真面目なばかりだと思われていたクリスと、悪友ウィルトの繰り広げる、意外にも悪戯っ子な二人の昔話。
 国王夫妻や賢護石どころか、食事の世話をしている周囲の侍女たちまで、必死な顔で笑いを噛み殺している。
 黙んまりを決め込んでいるのはレフと、レフの目の前にいる、アルムだけだ。
 アルムはどこか不機嫌そうな顔で、なぜだかずっと、口を閉ざしていた。
 
 
 
 立場上、最後まで晩餐の席についていたレフだが、それが限界だった。
 食事も済んだことだし、サロンに場所を移そうという、
いつになく嬉しそうな王妃の言葉を一人断り、大広間を足早に横切っていく。
 出て行く間際にちらりとウィルトを振り返ったが、彼はレフの方を見ていなかった。
 いつの間にか人の増えた大広間では、ざわざわと皆が席を立ち、それぞれに言葉を交わしている。そんな人々の中で常に一緒のウィルトとクリスは、他の誰より目立っていた。
 ウィルトはグラスを片手に、ぴったりとクリスに寄り添い、少し身を屈めて話を聞いてやっている。
 優しい笑みを浮かべて頷きながら、黙って椅子を引くと、クリスにそこへ座るよう勧めているようだ。

「大丈夫ですよ。もうそんなに弱くはないのです」
「どうだかね。お前の大丈夫は、アテにならないからな」
「またそうやって、子供扱いする…」
「だったら素直に座りなさい」
「…はあい」
「よく出来ました」

 渋々腰を下ろしたクリスと、子供を褒めるような仕草で、頭を撫でているウィルト。
 笑いあう二人の姿は、三年前にもよく見かけた光景だ。しかし微笑ましく見つめるには、もう何もかもが違ってしまっている。
 魔族の血など一滴も入っていないはずなのに、賢護石と並ぶほど美しく成長した皇太子クリスティン。