淡い金色の髪を撫でる、指の長い大きな手には、見たことのないシンプルな指輪が嵌められていた。
もう彼は目の前でクリスが倒れても、軽々と抱え上げられるほど、逞しい青年になっている。
彼らを見ているのだろう。控えの間から顔を覗かせ、きゃあきゃあ言いながら頬を染めている侍女たち。お似合いね、という無責任な言葉を耳に留め、レフは大股にそこを後にした。
一人で先に私室に戻ったレフは、夜着に着替えたものの、手持ち無沙汰に窓から空を見上げている。
雲の流れが少し速い。
空気もわずかに湿っているようだ。
「明日の午前中は雨だな…まあ、すぐにやむだろうが」
黄の賢護石は天候を操る。しかし何か目的がない限り、自然の流れを乱すようなことはしない。
溜め息を吐き、部屋の中ほどへ戻ると、大人が三人は座れる大きなソファーに腰を下ろして、膝を抱えた。
華奢な身体。頼りない手足。
どんなに長い時間を生きていても、子供にしか見えない自分。
さっきのウィルトを思い出していると、共に過ごしていた頃の、アメリアの姿が頭の中を過ぎった。もう何年もこんな風に、彼女の姿を思い出すことはなかったのに。
自分を置き去りにし、一人で美しい大人の女性に成長していったアメリア。当たり前のそのことが、彼女を傷つけ、追い詰めてしまった。
男であるウィルトが、同じような苦しみを抱くことはないだろうけど。あの時と同じ様に置いて行かれるレフは、また繰り返されるのかと、切なく眉を寄せる。
絶対に重なることのない時間。
見送るばかりの自分。
賢護五石の絆が固いのは、同じ苦しみを分かち合えるからだろう。
皆同様に、誰かを愛し置き去りにされ、どこかに最期を求めるのだ。
自分を懸命に追いかけていたウィルトだって。いつの間にか隣を過ぎ、遠い未来へ足を踏み出している。
小さく身体を竦めて、自分を抱きしめた。何度経験しても、この喪失感には慣れそうにない。
―――わかっていたことなのに…。
膝に頭を押し付けたレフは、扉の向こうで話し声がするのに気付き、顔を上げる。ちょうど同じタイミングで、扉を叩く音がした。
「レフ様」
外から声をかけるのは、長年このフロアでレフの世話をしている年老いた女官の声。こんな夜更けに何事だろうと立ち上がる。
「どうした」
「ウィルト・ベルマン先生がお越しです」
思わぬ来訪者にレフが驚いていると、外からは確かにウィルトの声が聞こえた。
「やめてくださいよ。貴女に先生なんて呼ばれたら、身の置き場がなくて困ってしまいます」
「いいえ、いけません。もうご幼少の頃とはお立場が違うのですから」
「お立場って…ちょっと背が伸びただけじゃないですか」
「まあ、何を仰っているの。貴方は賢護五石様のお医者さんになられるのでしょう?」
「やめてくださいって…オレは今でも、西館で迷子になっては貴女に探してもらった、坊やのままですよ」
「あらあら大変。まだ迷子になる気ですの?」