【Will x Leff H】 P:11


 さっきまで蹲っていたソファーへ導かれ、座らされる。レフの両側に手をついたウィルトは、逃げることなど許さないとでも言うように顔を近づけた。

「離せっ!」
「イヤだ」
「ウィル!」
「賢護五石の研究だって?そんなもの、どうでもいい。オレはただ自分が、二度とあんな苦しみを味わいたくなかっただけだ」
「………」
「この手から零れ落ちていこうとする貴方の命を、拾うことも出来ずに。ただ必死に目の前のものをかき集めるような、無様な醜態を二度と晒したくない。他の賢護石なんか、本当はどうでもいい。貴方を捕まえていられるなら、オレはなんだってする」

 怖いくらい真剣な瞳で告げたウィルトは、目を見開いて聞いていることしか出来ないレフに、ふっと表情を和らげた。
 両手の拘束を解くと、ずるずるその場に崩れ、床に腰を下ろしてレフの膝に頭を乗せる。長い腕が甘えるように、緩い力でレフを抱きしめた。

「みんなはたった三年でって言うけど。オレには永遠に思えるほど長かったよ…」
「………」
「貴方に会えない辛さは、想像を超えてて。向こうへ行ったばかりの頃は、毎日ここに帰る理由を考えてた」

 レフの膝に懐いて頭をすり寄せ、泣き言を零すウィルトは、
急に子供っぽく見えて。それはレフの記憶の中にいる、小さなウィルトとあまり変わらない。
 思わず柔らかそうな髪を撫でてやると、ちらっとレフを見上げ、嬉しそうに口元を綻ばせた。そうして、いっそうぐりぐりと頭を押し付けてくるのだ。

「絶対結果を出してくるなんて、クリスに啖呵(タンカ)切ったもんだから。さすがに何もしないまま帰ることなんか出来ないし。でもちょっとでも早く帰ろうと思って、ずーっと王立文殿に引き篭もってたんだ」
「…サシャの谷は無医村だろ。頼りにされたんじゃなかったのか?」
「そりゃ…頼まれれば診療もしたけど。面倒がってんの、バレバレだし。あんまりがっかりさせるのも悪いかと思って、エリクが来たときに医者を派遣するよう、クリスに伝えてもらった」
「じゃあ、向こうには別の医者が?」
「うん。すぐに来てくれて…だからオレは結局、外科手術を何度か手伝ったくらいかな」
「…役立たずめ」
「しょうがないじゃん。早くレフの元へ帰ってきたかったんだよ」

 声が低くなっても、身体が大きくなっても、話すことは幼い頃と変わらない。
 レフは力が抜けそうなほどの安堵にほっとして、
自然と頬を緩めていた。

「ほんとは昨日、ここへ来るつもりだったんだけどね」
「馬鹿を言うな。ベルマンやアメリアも、お前を待っていたんだから」
「そうなんだよな…ちょっと王宮行ってくるって出掛けようとしたら、母さんに泣かれてさあ」
「当たり前だ」
「父さんも『一晩くらい家族水入らずで過ごしてもいいだろう?』って言うし…結局、来られなくて」
「来なくていい、来なくて」

 あしらうレフにむうっと膨れた顔を見せ、ウィルは抱きしめていた手をレフの膝の上に置いた。そこへ顎を乗せレフを見上げる。