こうして視線の高さが昔に戻ると、二人の間にあった緊張は、嘘のようになくなってしまう。
「謁見の間でレフを見たとき、オレ自分のセリフ忘れそうになった」
「本当か?余裕に見えたけどな。随分、落ち着いていたじゃないか」
「そうでもないよ…一瞬、言葉が出てこなくて。なんとか誤魔化せたと思ったのに、クリスだけはちゃっかり気付いてて。さっきの晩餐でも、いちいち小声で言うんだ。今はちゃんと喋れてますね〜って」
「…じゃあ」
「ん?」
「いや、なんでもない」
微笑みあって顔を寄せていた二人は、自分のことを話していたのか。
やけに安心している自分が、子供じみた嫉妬をしていたことに、ようやく気付いて。レフは思わず視線を逸らし、表情を手で隠してしまう。
そんなレフをどう見たのか、ウィルトがゆっくり立ち上がり、レフの隣に座った。
レフは顔を覆っていた手を下ろし、じっとウィルトを見守る。彼は天井を見上げて表情を和らげると、感慨深げにそっと目を閉じた。
「やっと帰ってこられた…」
「ウィル」
「帰って来たんだなあ、オレ」
「…そうだな」
「そばにいるって言葉はきっと、身体が近くにあるって意味だけじゃないと思ったから。心はずっとそばにいるんだって。だから平気だと…そう思ってたんだけど。やっぱこうして、レフの顔を見たらさ。もう二度と離れるのはイヤだて思うよ」
「…そうか」
穏やかに答えるレフに、ウィルトは目蓋を上げた。
「三年もの間、勝手なことをしてごめん」
「私にとっては、大した時間じゃない」
「うん。レフが賢護石で、良かった」
怖いくらい真剣な、しかし熱い視線ではなく。とても落ち着いた瞳が、真っ直ぐにレフを見つめている。
どこまでもどこまでも、レフを追いかけ続けていた幼い頃のウィルト。この子が帰って来たのだということを、レフも改めて実感していた。
心の中に湧いているのは、やはり喜びかもしれなくて。そうだとしたら、かけてやるべき言葉があるはずだ。
「…ウィル」
「うん?」
「だから…その。なんというか」
「レフ?」
躊躇う様子のレフに、ウィルトは首を傾げて、不思議そうに続く言葉を待っていた。
何かを素直に伝えることが、本当に苦手なのだけど。今だけは、一言くらいくらいなら、そう何度も自分に言い聞かせる。
時間がかかったが、レフはようやく小さな声で、言葉を零した。
「………。おかえり」
ちょっと、今さらかとも思ったけど。目を見開いて驚くウィルトの表情が、嬉しそうに綻んだのを見て、レフはもう一度「おかえり、ウィルト」と呟く。
頷いたウィルトは、レフの小さな手を握り締めた。
「もう、離れないから」
「そうか」
「貴方を愛してる。この想いは重なるばかりで、褪せることを知らない。愛しているよレフ…いつまでもオレは、貴方のそばにいるから」
幼い頃にした誓いをもう一度口にして、ウィルトはぎゅっと繋いだ手に力を込めた。