【Will x Leff I】 P:03


 ウィルトの提案がよくわからず、レフは首を傾げる。長い歴史の中で、そんなことは考えたこともなかった。

「クリスが昔からよく言うんだ。国王のものは全て国民のもの。血の一滴までラスラリエに捧げられるべきものだって」
「………」
「正直、国民の立場としては、そんな重たいものいらないんだけど。でもまあ確かに、国庫の金は国民の税金かな、と思う」
「そうだな」
「王家が引き取る宝石は、つまり国宝なんだろ?デザインを選ぶ権利ぐらい、オレたちにもあるのかなって」
「なるほど」
「とはいえ、国民投票をするほどのことじゃないし。だったらその代表として、王宮のみんなが選ぶのはどうかな」
「………」
「情報開示にもなるし。時間があれば公募にするのも楽しそうだけどね」

 そうか、と小さく頷いて。レフは思案げに腕を組んでいる。
 考えたことはなかったが、確かにそんなやり方も悪くない。予算や時間の関係上、毎回出来るわけではないが、試してみるのもいいだろう。
 何より情報開示が出来るのは、大きな効果を生むはずだ。
 少し贅沢をしがちな王家の人々や、常に私服を肥やそうと狙う大臣達への、牽制にもなる。
 ではまず、どこから手を着けるか。
 考えに耽っていたレフの視界を、大きな手が横切った。

「ウィル…?」
「下げるね」

 言いながら彼は、空になった茶器を取り上げた。それを片付けに歩いていく後ろ姿を、
レフはぼうっと見つめてしまう。

「レフ」
「あ、ああ。なんだ」
「やってみんの?」
「そうだな」
「クリスが絶対、喜び勇んで協力すると思うんだけど、どうかな?ちょうどオレ、今からあいつに呼ばれてるんだ。ついでだから何か伝えとこうか?」
「なら話の概要を説明して、協力してくれるならいつ時間を取れるか、聞いておいてくれ。あの子も忙しいようだからな」
「了解。行ってくる」
「ウィル、お前」

 こういうとき、昔のウィルトなら当然の顔をして、レフに何かを要求しただろう。自分を褒めろとか、一緒にいる時間を作れとか。
 しかし今のウィルトは、感謝の言葉一つ、レフに要求してこない。そうなると逆に落ち着かないなんて、贅沢だろうか。
 言葉を探すレフを振り返ったウィルトは、やっぱり恩着せがましいことも言わず、穏やかに笑って「そうだ」と呟いた。

「今日の晩メシ、レフが作る?」
「…このフロアの分だけは」
「じゃあ食いに来るから、その時にクリスの返事を伝えるよ」
「わかった」

 ひらひらと手を振って去っていくウィルトは、同じ部屋で働いていた者たちと、気軽に挨拶を交わしている。
 そう、まるで二人きりのような感覚でいたが、執務室には常に数人の職員がいるのだ。
 まるで自分の居場所のように「行ってきます」と声をかけ「行ってらっしゃい」と見送られているウィルト。
 レフは戸惑う自分に、気付いている。

「なんだかまるで、ベルマン先生はレフ様の補佐のようですね」

 その役割を担っているはずの男が、頬を綻ばせて話しかけてくる。