【Will x Leff I】 P:04


 三年で成果を上げて戻って以来、今や王宮でベルマン先生と言えば、ウィルトの父ではなく、彼自身のことになっていた。ウィルトが王宮に住んでいるせいもあるだろう。
 レフは補佐官の言葉に、首を振ることも頷くことも出来ない。

「私たちにまでお茶をいれて下さって」
「暇なんだろ、それくらいさせておけ」
「とんでもない!ベルマン先生は、お医者様としても忙しくしていらっしゃいますよ」
「…そう、なのか?」

 呆然と首を傾げるレフに、男はまるで自分の事のように、自慢げな表情を浮かべた。

「ベルマン先生が、賢護五石の皆様を診るために王宮へ上がられたのは、わかっているのですが。その…相変わらず王宮医師団は、王家の方々以外の治療に、あまり積極的ではないので。気軽に診て下さるベルマン先生を、みんな頼りにしてしまうんです」
「構わんだろう。アレでも一応、医者だ」
「先日はうちの娘も診て頂いたんですよ。夜中のことでしたのに、少しも嫌な顔をなさらず、朝までついていて下さいました」
「………」

 驚きを隠せない。
 今もしょっちゅうレフの元に現れ、勝手に居座ったり、ワガママに食事を要求するウィルト。暇なのかと問えば、自分が暇なのは賢護五石が元気な証拠だと、笑うばかり。
 だんだんレフもそれが当たり前の毎日になっていて、もう今ではウィルトがそばにいることにも慣れてしまった。
 今日と同じく、絶妙なタイミングでお茶を用意してくれることも、少なくないのだ。
 しかしウィルトは、いつのまにかこの王宮で、自分の立場を確立しているらしい。それを証明するかのように、男はまだベルマンを褒め称えている。

「皇太子殿下の主治医も、今ではすっかりベルマン先生ですね。もう王宮医師団など必要ないのではないかと、噂する者もいるくらいで」
「………」
「なのにご自分の研究も、ちゃんと続けていらっしゃる。ご立派なご子息を持って、お父様もお喜びのことでしょう」
「………」
「私は王宮に上がる前、お父様の方のベルマン先生にお世話になっていたんです。さすがに親子だけあって、お医者様としての姿勢も、お姿も似ていらっしゃいますね」
「…そうかな」
「レフ様?」
「お前には、そう見えるのか…」
「はい?」
「いや、なんでもない。
ではそういうわけで、このデザインの決定には新たな方法を取り入れる。すまないが、少し忙しくなりそうだ」
「構いません。お任せください」

 笑顔で頷き離れていく男から、レフは目を逸らす。
 ベルマンとウィルトが似ているなんて、少しも思えない。レフにとって二人は、対照的でさえあるように見える。
 それどころかベルマンともアメリアとも似ていない、まるで見ず知らずの青年のようで……時々、レフを不安にさせるのだ。

 さっき手を回された肩が熱い。
 レフはそこをぎゅっと押さえる。胸の奥が痛かった。

 ―――繰り返すわけにはいかない…

 アメリアの泣き顔が脳裏を過ぎる。
全然似ていないと思うのに、同じくらい辛そうに顔を歪めたウィルトを想像してしまう。
 もう二度と、同じ思いをしたくない。
 彼はヒトで……自分は賢護石なのだから。