かあっとレフの頬に血が上る。
今、思い出しても恥ずかしくて仕方ない。
たまたま二人きりになった夜、ウィルトはその話をレフにしてくれたのだ。
自分がどんな思いで研究を始めたか。クリスがどうして後ろ盾となり、ウィルトに協力を惜しまないのか。
二人の少年が誓った、切ない望み。
彼らが賢護五石を守ろうとする理由。
少しずつ繋がっていく記憶。
欠けていた部分が埋められていくと、ウィルトの熱い想いがどんどん自分の中に流れてくるような気がして……。
はっと気がついたら、レフはウィルトの膝の上で抱きしめられ、涙を堪えていたのだ。
間近にウィルトのきれいな瞳があって。
幼い頃とは違う、逞しい腕が身体を包み込んでいてくれて。
長い指がレフの髪を撫でていた。
そんなに寄りかかって甘えていたなんて、本当に気付かなかったのだ。
真っ赤になって混乱するレフの動揺を、知ってか知らずか。ウィルトは痺れるような甘く低い声で、耳元に囁いた。
―――泣いてもいいよ、レフ…大丈夫?
心配そうな声が、ため息混じりに耳をくすぐった。まるで息を吹きかけられたみたいに背筋から腰まで、ぞくぞくしたものが走って……思わず、声を上げそうになって。
レフは咄嗟にウィルトを突き放し、部屋の端まで逃げて行って「帰れっ!」と怒鳴ってしまった。
「我ながら情けない…」
赤い顔を隠そうとでも言うように、俯いて目をつぶる。
聞かせてくれた話に夢中になるあまり、膝の上へ抱き上げられていたことにすら、気づかなかったことも。
気づいた途端に恥ずかしくなって、小娘のごとく逃げ惑ったことも。
驚いた顔のウィルトが、苦笑いを浮かべて「あんまり深く考えなくていいから」と自分を気遣ってくれたことも!
もうどれを思い出しても、恥ずかしくて居たたまれない気持ちになってしまう。
いつもは所構わず、レフを口説くウィルトだが、あの時の彼は別に、口説いてどうこうしようと思っていたわけではなかった。
ただ単に、辛そうなレフを心配して、少しでも気持ちが和らぐよう、努めていてくれただけ。
それなのに自分は……!
勘違いして、ちょっと怖くなってしまって逃げ出して。
……情けないにもほどがある。
「あんなガキに、何をしているんだ私は…くそっ、ウィルのせいだっ」
八つ当たり同然のことを呟いたレフの耳に、ガアンッ!と大きな音が響いた。
慌てて視線を戻すと、テオが剣を弾かれ、膝をついている。容赦ないリュイスの切っ先は、その喉元を捕らえていた。
「貴様はそうやって、戦場でも蹲っているつもりなのか?!王国軍に役に立たない兵士などいらん!すぐに辞めてしまえっ」
恫喝する声。必死に立ち上がろうとしているテオ。
もう見ていられなくて、レフは二人の元へ駆け出した。
「リュイス!!」