【Will x Leff I】 P:07


 まだ剣を振り上げようとしているリュイスの腕を、強く掴む。年若い姿で成長の止まっているレフが、王国軍元帥であるリュイスに敵うはずはないけど。掴んだ腕は、それだけでぴたりと動きを止めた。

「邪魔するな」
「いい加減にしろ!こんなもの、稽古でも何でもないだろうがっ」
「黄の賢護石が口を出すことじゃない」

 冷たく言い放つリュイスの言葉を聞いて、テオは幼い身体でよろよろと立ち上がり、自分の剣を拾うと、震える手で握り締めた。

「だい…じょ、ぶ…です」
「テオ」
「ぼく…まだできます…っ」
「もういい、やめなさい。リュイス!」

 窘(タシ)めるレフをじっと見つめ、ようやくリュイスは剣を収めた。
 何も言わずに背を向けて歩き出すリュイスを、レフは唖然として見つめる。
 最後にリュイスが見せた表情は何だ。
 顔を歪めているのは、邪魔をしたレフに対す不満だと思ったが、違う。

 ―――あいつ…もしかして。

 まさか必死に食らいついてくるテオを見て、面白がっているのか?レフが止めに入ることも、全て計算済みで?
 必死に笑いを噛み殺しているように見えたが、少年はそれに気付かなかっただろう。

「りゅ…す、さ…ま」

 掠れた声で縋るようにその名を呼んだテオは、気を失って崩れ落ちる。
 レフはもう余計なことを考えるのを止めて、テオに駆け寄り小さな身体を抱き起こしてやった。
 近くで見ると、身体のいたるところに傷が出来、血が滲んでいる。

「やりすぎだろ、あいつ!」

 レフの腕の中で、テオの身体がぐっと重くなった。唇が浅い息を繰り返している。

「ウィル!早く手当てを…って、ぁ」

 こんなところに、いるはずもないのに。
 思わず叫んだ名前に、自分で動揺した。
 どうしていもしない男の名前を呼ぶ?彼が医者だから?いつもそばにいて当然だと思っているから?
 ……どうして、その手を貸して欲しい時、そばにいるのが当たり前だなんて。
 レフは頭を振った。動揺している場合ではない。とにかくテオを助けてやらないと。

 顔を上げて首を巡らせれば、心配そうに見守る料理人たちが、自分の立っていた窓に集まっている。彼らを呼び寄せようと思った矢先、いないはずの足音が近づいてきた。

「…お前、どうして…」

 あまりに驚いたレフは、上擦った声で尋ねている。小さく笑いながら、ウィルトはテオのそばに腰を下ろした。

「どうしてじゃないだろ、貴方が呼んだんじゃないか」
「しかし、だからって…」
「とりあえず移動しよう、レフ。ここは日差しが強い」

 手首を取って脈を確かめ、傷の状態を確認したウィルトは、テオの首と膝に腕を差し入れて、小さな身体を抱き上げる。
 屋根のある西回廊まで連れて行くウィルトの後ろを、レフは動揺を隠せないままついて歩いた。