「方法の問題を言ってるんです。いくらでも他にやり方があるなら、少しでも優しく…あ、テオ?気がつきましたか?」
「クリス…ティン、さま…ぼ、く」
「いいんですよ、無理に話さないで。身体を楽にしていなさい。どんなに性格が悪くても、医者としては優秀なのが、ここにいますから。もう大丈夫ですよ」
「ちょっ…お前それ、ヒドくね?」
「おや、申し訳ありません。根が正直なもので」
仲のいい二人は、放っておくといつまでもこんな風に、なんでもない会話を続ける。それが彼らの親密さを表しているような気がして、レフは口を挟めない。
所在無くそばに座っているだけのレフは、ただ黙ってウィルトの器用な指先を見つめていた。
「それじゃ、とにかく移動するか。日陰とはいえ、ここは暑すぎる」
ウィルトがもう一度テオの身体を抱き上げようとした時、いつの間に現れたのかアルムがそれを制した。
「俺が運ぶ」
「アルム?お前、いつの間に」
「いいだろ別に…どけって」
ぐんぐん背の伸びているアルムは、二つ年下とはいえ、もうクリスより背が高く、ウィルトにも並ぶほどだ。
剣の稽古に明け暮れているせいか、筋肉質の締まった身体は逞しくて、さすがのウィルトでも敵わない。
アルムは少しの負担も感じさせずに、テオを抱き上げてしまった。
クリスと顔を見合わせたウィルトは、肩を竦めて憮然とした表情になる。
「…弟さん、なんか最近、生意気なんですけど?」
「それは失礼いたしました。弟に成り代わりお詫び申し上げます。兄弟ともども、根が正直なもので」
「可愛くねえ兄弟」
「酷い言い方をしますね」
「率直な感想だ。昔はあんなに可愛かったのになあ。たった三年でこうも変わるとは」
「貴方にだけは言われたくない感想ですよ」
「兄上、どこへ運ぶんだ」
いつまでもじゃれ合いをやめない二人に、アルムが不機嫌そうな声で口を挟んだ。
確かに昔は兄と同じくらいウィルトに懐いていたアルムだが、今ではどこか距離を置いているようさえ見える。
「アルム、さま…ぼく、立て…ます」
「いいから、じっとしてろ」
「でも…」
申し訳なさを通り越して、泣きそうになっているテオが唇を噛む。それに気付いたクリスが立ち上がり、弟に寄り添うと、アルムは途端に表情を和らげた。
「テオ、今は余計なことを気にせず、アルムに任せなさい。私も側にいますから」
弟の変化に気付かないのか、クリスは優しく微笑んで、テオの汗を拭いてやっている。
「アルム、丁寧に扱ってあげてくださいね」
「大丈夫だよ。リュイスじゃあるまいし」
「どうしますか、ウィル。医療棟へ?」
「冗談だろ、あんなとこ運んで何が出来る。オレの私室へ運んでくれ」
「わかりました。それにしても…いい加減、貴方の診察室を考えなければいけませんね」