ならば……必要ないのかもしれない。
何が真実かを、知ることなんて。
それがどんなことでも、ウィルは彼を最後まで見守ると決めたのだから。
クリスは幼い頃から、レフを愛し続けるウィルの気持ちを、一度も疑ったことがない。なぜ、どうしてと問うことさえせず、レフさえ信じてくれなかった想いを、無条件に信じてくれた。
だから同じように自分も、彼のことをただ黙って支えていよう。
淡い光を閉じ込めたような細い髪を、ウィルは優しく撫でていた。
「心配しなくても、オレは誠実にファン様の治療をしてるよ」
「ウィル…」
「多少は興味本位の部分もある。それは否定しない。でもな、クリス。あの方はレフにとって、この広い世界にたった五人しかいない、運命共同体なんだ」
「………」
「傷つけるようなことはしないよ。どんなことをしてでも治して差し上げたい程度には、大切に思ってる」
「…はい」
小さく頷いたクリスの髪を、今度はゆるく引っ張った。
「それにな」
「え?」
不思議そうな瞳が自分を映している。
きっと何を聞いても、結果は同じなのだから。もうクリスの真意を確かめるような真似はやめよう。
彼を孤独の闇に突き落とさないためにも。
……クリスに与えてやれるのは、必ず後ろに自分が立っているという、僅かな光だけなのだ。
「あの方がお前の中で、どれほど大きな存在か。オレはわかってるつもりだけど?」
「あ…」
「オレにとって大切なのは、レフとお前だけなんだ。国も世界もどうでもいい。賢護石も国民も、オレには何の価値もない。ただレフとお前だけ。実に明快な答えだろ?」
ふっと口元に優しい笑みを浮かべたウィルは、くすぐるようにクリスの頬を撫でる。まるで自分自身を見ているような、曖昧な笑みに何を悟ったのか。クリスの瞳がにじんで、輪郭を失っていった。
「必ず守る。絶対だ」
「ウィル…私は」
「もう言わなくていい。お前が必要だと思うなら、お前の身を犠牲にしても構わない。そんなお前を守るのは、オレの役目」
「………」
「お前が自分自身を傷つけても、オレは責めたりしないから」
「…はい」
「ま、多少は怒るかもしれないけど」
それぐらい許せよな、と。ウィルは可笑しそうに付け加えた。
絶対に一人にはしないから。己の信じた道を貫けと。言下に強い思いを窺わせるウィルの声に導かれ、クリスの眦から涙が零れ落ちていく。
何も答えない自分なのに。それでもウィルは、そんな自分をまるごと受け止めてくれると言う。
クリスはウィルの手を握り締め、しばらくの間、声を押し殺して泣いていた。
彼がウィルに涙を見せたのは、生涯ただ一度。この時だけだったかもしれない。