【Will x Leff J】 P:05


 
 
 
「ベルマン先生、こちらです!」

 大声で名を呼ばれても、右足がろくに動かないウィルは、走ることが出来ない。なんとか足早に近づいているのだが、傍から見ればのんびり歩いているようにも見えてしまうのだろう。

「先生、早く!お願いですからっ」

 そう言われてもな、と。ウィルは顔を顰めながら示された部屋に向かう。
 道案内など必要ない。そこが目的地なのはわかっている。ウィルの視線の先には、輝くばかりの金色の髪が揺れているのだから。

「ぅ…ぁ、うあああっっ!!」

 悲鳴とも咆哮とも取れる声が聞こえた。
 ようやくたどりついたウィルは、部屋の入り口で動けずにいるレフの肩に手を回して、中を覗きこむ。

「やっ!やああっっ!!いやああッッ」
「ファン!落ち着けって、ファン!!」

 部屋の中では、寝台で暴れる紫の賢護石ファンを、アルムが懸命に押さえつけていた。それがいっそうファンの混乱を招くのだが、他にアルムの出来ることもないだろう。
 腕を回した華奢な肩が震えている。ウィルは大きな手で、細いそれをさすった。

「レフ、大丈夫?」
「私は大丈夫だ…しかし、ファンが…」
「ああ。ちょっと大変なことになってるな」
「ウィル…」
「見てるのが辛いなら、離れててもいいよ」

 愛しい人の肩を撫で、髪を撫でて、こめかみに唇を押し付ける。いつもは接触を嫌がるレフなのに、今のファンの様子があまりにも衝撃的なのか、動揺していて考える余裕もないようだ。
 細い指がきゅうっとウィルの服に縋りついた。

「ぅああああっっ!!」

 顎を上げ、喉を晒してひときわ高く声を上げたファンを見ていられず、レフは額をウィルに押し付けて、強く目を閉じる。
 あんな風に錯乱する賢護石を、見たことがないのだろう。自分の身にも起こりうる事態だとわかっているから、余計に恐ろしいのかもしれない。
 世界にたった五人しかいない仲間の、想像を絶する姿。レフはファンが声を上げるたびに、びくりと身体を震わせる。

 そうっと抱きしめて背中を撫でたウィルの口元に、満足そうな笑みが浮かんだ。
 ファンに注目が集まっていて、誰も見ていなかったのは幸いだ。患者の窮地に主治医が微笑んでいては、信用も何もあったものじゃない。もちろんそんなこと、ウィルにもよくわかっている。

 ―――ま、これじゃクリスに似たようなモンだって言われても、仕方ないか。

 酷い男だな、と自分を評して。ウィルは腕の中の愛しい人を見つめた。
 今日、
ファンがこうなることは、大体予測できていた。その上でレフをここへ来させたのは、誰でもないウィル自身。

「ごめんな、レフ。オレが食事を運んでほしいなんて言ったから…こんなことになるとは思ってなくて…本当にごめん」

 あくまで穏やかに、申し訳なさそうな声で囁いた。レフはウィルの腕の中で首を振る。顔を上げた金色の瞳は、今にも零れそうな涙で潤んでいた。