いきなりくだけた口調で問答を始める二人の会話を、間に挟まれたファンが目を白黒させながら聞いている。
ひとしきり言い争い、面白がって笑いあうウィルとクリスを交互に見つめ、彼は戸惑いがちに口を開いた。
「あの…お二人はお親しいんですか?」
「まあ、腐れ縁ですかね」
「腐れ縁?」
「クリスとは幼い頃からの友人なんですよ。だから、いまさら畏まって話すほどの相手でもないんです」
「ご友人…」
「皇太子殿下とはいえ、気兼ねなく話す友人の一人や二人、必要でしょう?…貴方もですよ、ファン様」
ウィルはそう言うと、きゅっとファンの手を握り、ドアのそばで様子を見守っている、アルムの方を向いた。
「貴方もアルムに、少しご自分の気持ちを話してみるといい」
「自分の、気持ち?」
「そうです。苦しいことや辛いこと。嬉しいことや楽しいことも。きっと彼は、どんなことを話しても聞いてくれる。そうやって心の中を吐き出して、自分を慰めてやるんです」
「………」
「心が強くなれば、身体もついてくる。みんなそうして生きているんですよ。皇太子でも賢護石でも、我々ヒトでもね」
「…はい」
「もちろん相手はオレでも構いません。話していただけるなら嬉しいですね」
にこりと微笑んだウィルは、ファンの身体を横たえさせるようクリスに指示を出し、取り出した注射器で薬液を吸い上げる。
「少しお休みになってください。今日はお疲れ様でした。これは貴方の眠りを助けるための薬です」
「…ウィルト様」
「不安に思うことなどありませんよ。貴方のそばにはいつも、アルムがいてくれるでしょう?貴方は一人じゃない」
話しかけながらウィルはファンの肘の辺りに、消毒薬を塗りつける。そっと離れたクリスはアルムの元へ近づいていった。
「ファンが目を覚ますまで、そばにいてあげてください」
背の高いアルムを見上げて話しかけるのに、弟王子はちらりとも視線を向けない。不愉快そうに眉を顰めたまま、先刻のウィルとの会話を嫌味っぽく持ち出してくる。
「…ご命令ですか?皇太子の権限で」
「アルム…」
「いますよ、別に。兄上がそう言うなら」
ふいっと顔を背けるアルムは、クリスに腕を掴まれて、ようやく兄を見下ろした。
「やめて下さいアルム…私は命じてなどいない。貴方にお願いしているだけです」
「兄上」
「貴方がついていれば、きっとウィルも安心して…」
言いかけたクリスの言葉を遮り、アルムは腕を振り解いた。
「言われなくてもそうしますっ」
話は終わりだとでも言わんばかりに、兄に背を向けファンの寝台へと大股に歩き出す。どっかりと枕元の椅子に腰を下ろしたアルムを、クリスは悲しげな表情で見つめていた。
―――矛盾してるぞ、クリス…。
ウィルはファンの上掛けを直し、薬品を片付けながら、クリスの様子を窺っていた。
あんな風に言えば、アルムを怒らせることくらい、わかっていたはずだ。しかしぽつんと立ち尽くすクリスは、まるで置き去りにされた子供のように、寂しそうな表情をしていた。