【Will x Leff K】 P:02


「夜もよくお休みになられていないご様子なんですっ!」
「なるほど…それで?」
「今朝お会いした時には、本当にお顔の色も優れず、お休みになってくださいと何度も申し上げたのですが、お聞きいただけなくて」
「………」
「せめて先生の診察を受けていただこうと思ったのですが、レフ様がベルマン先生には絶対に言うなと」
「そうですか…」
「今までも何度か、先生にご相談しようと思ったのです。ですがレフ様はその度に、自分は大丈夫だし先生は忙しいからと、我々に黙っているよう指示されて」
「…お気遣いくださったんですね」
「はい。きっとご幼少の頃から先生を知っていらっしゃるから、お忙しい先生に遠慮なさっているのだと思うのですが」

 そんな場合ではないのに、とでも言いたげな様子で、男は首を振る。ウィルは苦笑いを浮かべた。

「確かに私は最近、忙しくしておりましたからねえ」
「何を悠長な!レフ様は今日、陛下の前でご報告なさっている最中に、お倒れになったんですよ!」

 男の言葉を聞いて、ぴくっとウィルの頬が引き攣った。笑みの消えた口元に、男はやっと深刻さが伝わったかと、安堵の息を吐いている。

「それは、いつ頃の話です」
「つい三時間前です。すぐにでも先生をお呼びしようと思ったのですが、その前に意識を取り戻されたレフ様が、大事ないからと」
「………」
「ご自身は報告をお続けになるつもりでしたが、さすがに陛下から休むよう仰せつかりまして、そのままご寝室に」
「では今、レフ様は?」
「ご寝室で休んでいらっしゃいます。お休みになる前にも、先生には言うなと仰ったんですが…もうそんなこと言ってられません!」

 男は首を振ると、半歩前へ出てウィルに訴える。

「お叱りは覚悟の上で参りました、先生どうか診察をっ」
「そうですねえ…」
「のん気なことを仰らずに!すぐにでもいらして下さい!」
「ですがレフ様は、今お休みになっているんでしょう?」

 穏やかに言いながら、ウィルはイスを反転させて男に背を向けると、何でもない事のようにペンを手に執った。

「それはそうですが…しかし」
「もちろん、後でちゃんと伺いますよ」
「後ってそんな…」
「お話を伺うにしても、ご体調を拝見するにしても。レフ様がお目覚めにならなければ、話になりません。お休みになっておられるのでしたら、そのまま寝かせて差し上げてください」
「ベルマン先生っ」
「ご心配なさらずとも、賢護石の身体については、私が一番良く理解しているつもりです。レフ様がお倒れになったのでしたら、貴方も事後処理にお忙しいでしょう。黄の賢護石は私に任せて、彼の仕事が滞らぬようお願いいたします。レフ様はそれが一番、お心苦しいでしょうから」

 話は終ったとばかりに、ウィルは何かの資料を開いている。その背中に「お引取りを」と言われた気がして、男はぐっと手を握り締めた。
 彼は昔からウィルを知っている。
 どんなにレフに疎まれても、一生懸命、気持ちを訴え、まとわりついていた頃から見てきた。そんな補佐官には、今のウィルの態度があまりにも冷たく映るのだ。