【Will x Leff K】 P:07


 レフ、と答えを求め囁く低い声。
 耳から流し込まれたそれは、背筋を震わせ腰まで響いて、最後の砦を突き崩した。

「…ウィル」

 小さな声で呟き、レフは恥ずかしげに顔を背ける。

「ウィルのことを…考えてた」
「うん」
「ずっと…お前のこと…」

 最後まで言う前に、少し厚めの唇が降りてきて。言葉も息も、まるごと塞がれてしまった。

「っん…ふ、ぁ…んっ」

 唇をこじ開けられ、口腔を舐め回される。柔らかくて熱い物が、レフの口の中を蹂躙している。
 まるでウィル自身の性格を、表すかの様に。
 それは容赦なくレフの逃げ道を塞ぎ、どこまでもどこまでも、追いかけてきた。

「ん、んんっ…やっぁ…や、うぃ…る」

 押さえつけられた両手を離されても、逃げられない。アメリアとレフの間にあった優しいものとは全然違う。
 翻弄されるままに息を上げていくレフは、手が重なり合い、指を絡められると、それを無意識に握り締めていた。
 何度か唇を触れ合わせ、ウィルがそうっと離れていく。絡み合った指から力が抜けるのを感じて、レフはいっそう強くウィルの手を繋ぎとめた。

「レフ…」
「いやだ、ウィル」
「…うん」
「も、やだ…」
「うん。わかった」
「耐えられない…も、う…いなく、なるな」

 ぼろぼろ流れていく涙。
 あとからあとから溢れて、レフの周りに築かれていた分厚い殻を、溶かしてしまう。
 まるでレフの心を突き刺すように、痛いくらいに怖かったウィルの瞳が、ようやく優しいものに変わった。
 レフはそれに誘われるかのように、自分が一番嫌う子供っぽい態度で、ウィルに訴え続けた。

「お前が悪いんだっ」
「そうだね」
「私の為にサシャの谷へ行ったんだと言ったくせにっ。私の為に王都へ戻ってきたんだとも言った!」
「レフ」
「なのにお前は、毎日毎日ファンのことばかり。少しでも手が空いたら、クリスの元へ駆けつけて…」
「寂しかった?」

 ウィルはゆっくりレフを抱き起こし、腕の中に閉じ込める。
 やっと捕まえた。愛しい人。
 指を解いたレフは、ウィルの背中に手を回して、広い胸に頭を押し付けた。

「寂しくなんか、ない」
「そっか」
「お前はヒトで…私は賢護石だ。いつかお前がいなくなるのは、わかっている」

 矛盾した問答だ。
 いなくなるなと言った舌の根も乾かぬうちに、今度はどうせいなくなると言う。それはどちらも本当のことで、ずっとレフを苦しめている現実だ。
 抱いていた腕を緩め、じっとレフを見つめる。ウィルの瞳には強い光が浮かんでいた。

「ウィル…?」

 ぼんやりとその瞳を見つめ返す。
 さっきの射抜くような鋭さはない。責めるような厳しさもない。ただ強い気持ちだけを込めて、ウィルはレフを見ていた。

「そんなこと、誰が決めたんだ」
「…え?」
「母も、貴方も。どうしてそんな、理不尽な運命を受け入れる?何をそんなに苦しむんだろうな。オレには理解出来ないよ」
「だって…」