レフ、と答えを求め囁く低い声。
耳から流し込まれたそれは、背筋を震わせ腰まで響いて、最後の砦を突き崩した。
「…ウィル」
小さな声で呟き、レフは恥ずかしげに顔を背ける。
「ウィルのことを…考えてた」
「うん」
「ずっと…お前のこと…」
最後まで言う前に、少し厚めの唇が降りてきて。言葉も息も、まるごと塞がれてしまった。
「っん…ふ、ぁ…んっ」
唇をこじ開けられ、口腔を舐め回される。柔らかくて熱い物が、レフの口の中を蹂躙している。
まるでウィル自身の性格を、表すかの様に。
それは容赦なくレフの逃げ道を塞ぎ、どこまでもどこまでも、追いかけてきた。
「ん、んんっ…やっぁ…や、うぃ…る」
押さえつけられた両手を離されても、逃げられない。アメリアとレフの間にあった優しいものとは全然違う。
翻弄されるままに息を上げていくレフは、手が重なり合い、指を絡められると、それを無意識に握り締めていた。
何度か唇を触れ合わせ、ウィルがそうっと離れていく。絡み合った指から力が抜けるのを感じて、レフはいっそう強くウィルの手を繋ぎとめた。
「レフ…」
「いやだ、ウィル」
「…うん」
「も、やだ…」
「うん。わかった」
「耐えられない…も、う…いなく、なるな」
ぼろぼろ流れていく涙。
あとからあとから溢れて、レフの周りに築かれていた分厚い殻を、溶かしてしまう。
まるでレフの心を突き刺すように、痛いくらいに怖かったウィルの瞳が、ようやく優しいものに変わった。
レフはそれに誘われるかのように、自分が一番嫌う子供っぽい態度で、ウィルに訴え続けた。
「お前が悪いんだっ」
「そうだね」
「私の為にサシャの谷へ行ったんだと言ったくせにっ。私の為に王都へ戻ってきたんだとも言った!」
「レフ」
「なのにお前は、毎日毎日ファンのことばかり。少しでも手が空いたら、クリスの元へ駆けつけて…」
「寂しかった?」
ウィルはゆっくりレフを抱き起こし、腕の中に閉じ込める。
やっと捕まえた。愛しい人。
指を解いたレフは、ウィルの背中に手を回して、広い胸に頭を押し付けた。
「寂しくなんか、ない」
「そっか」
「お前はヒトで…私は賢護石だ。いつかお前がいなくなるのは、わかっている」
矛盾した問答だ。
いなくなるなと言った舌の根も乾かぬうちに、今度はどうせいなくなると言う。それはどちらも本当のことで、ずっとレフを苦しめている現実だ。
抱いていた腕を緩め、じっとレフを見つめる。ウィルの瞳には強い光が浮かんでいた。
「ウィル…?」
ぼんやりとその瞳を見つめ返す。
さっきの射抜くような鋭さはない。責めるような厳しさもない。ただ強い気持ちだけを込めて、ウィルはレフを見ていた。
「そんなこと、誰が決めたんだ」
「…え?」
「母も、貴方も。どうしてそんな、理不尽な運命を受け入れる?何をそんなに苦しむんだろうな。オレには理解出来ないよ」
「だって…」