「オレは絶対に、貴方から離れない。そう言っただろ」
「………」
「ずっとそう言い続けているじゃないか。貴方のそばにいる。離れないって」
何度も誓った言葉だが、ウィルが言下に含める、言葉以上の想いをわからなくて、レフは僅かに首を傾げた。
「お前、何を言って…」
「幼い頃から今まで、オレは一度も貴方を置いていく気なんか、なかったよ」
「…ウィル…」
「オレがこの世を去るときは、絶対に貴方を連れて行くから」
レフは驚きに目を見開いた。
ウィルの言葉が容易に理解できなかった。
「何を…言って…」
「賢護石は己の寿命を自ら決める。アルダ様のようなことさえなければ、自分が見定めた時に、この世を去る。そうだろ?」
「…ああ」
「貴方に出会って。賢護石である貴方を愛して。ガキだったオレは必死に調べたよ。どうしたら貴方を自分のものに出来るのか」
「………」
「賢護五石(ケンゴゴセキ)はどうやって、自分の寿命を決めるのか。何がきっかけで貴方たちは、この世に見切りをつけるのか。オレはずっとそれが知りたかった」
「それ…は…」
思い起こす。自分ではない黄の賢護石のこと。今まで見送った、たくさんの仲間のことを。
ウィルはレフの言葉を待つことなく、言葉を継いだ。
「終生の忠誠を誓った国王が崩御された時、貴方だけが私の王だと言葉を残して亡くなった賢護石。ひ孫が誕生したのを見届けて、この世を去った賢護石。長く生きることに疲れた方、ゆるやかに老いる身体の限界を感じて死期を決めた方。貴方にとっては昨日の事のように思い出せるんじゃないのか?」
「………」
「だったら貴方は、今決めろ」
「い、ま?」
「そうだ。オレは貴方を連れて行く。この世に置いて行ったりはしない」
強い意思の篭った言葉。
レフは呆然とウィルの声を聞いている。
「愛してるよ、レフ。…オレが生涯を終える時、貴方は一緒に来るんだ。一人でこの世に残ることなど、許さない」
それはずっと、ウィルが考えていた結末。
レフは唇を震わせて、突きつけられた情熱的な告白に、戸惑っている。真意を確かめようとでもするように、ウィルの瞳を見つめていた。
「連れて行く?…私を?」
「ああ」
「しかし、お前と私は…」
「種族が違うって?だから何だ。貴方はすでに充分、生きただろ。もういいじゃないか」
「もういいって、そんな」
「オレは生涯を貴方に捧げる。貴方が幸せになるためなら何だってする。だから貴方は貴方の最期を、オレに寄越せ」
「………」
「ラスラリエの将来など知らない。賢護五石の絆なんかどうでもいい。貴方はオレのものだ。絶対に離さない」
「ウィ…ル…」
「もちろん、オレの手が及ばない事態が起こって、貴方が先にこの世を去るというなら。それがたとえ明日でも、オレは後を追う」
「あ…あ、あ」
「一人にはしないよ。ずっとそばにいるから」
驚きに泣くことさえ忘れていたレフは、ウィルの言葉を聞いて、再び涙を溢れさせていた。