ずっとウィルが囁き続けた「そばにいる」という言葉の意味を、初めて知る。彼は幼い時からずっと、わかっていたのだ。
何をレフが躊躇うのか。
どうしてアメリアのことで、あんなにも苦しんだのか。
生きる長さが違うから、自分は必ず取り残されるから。
永遠に捕われ続けると思っていた、運命という名の鉄格子。
レフは自分の閉じ込められていた檻が、いつの間にか消えていたことに気付いた。
しかしレフは知らぬうちにかそこから連れ出され、代わりにウィルの腕の中へ、閉じ込められていたのだ。
……気付いてしまえば、簡単なこと。
そう、この子は昔から賢しくワガママで、実現できないことは口にしない。
なんだか身体中の力が抜けてしまって、レフはウィルに寄りかかった。
「レフ?」
「…お前、ずっとそんなことを考えていたのか」
「そうだよ。昔、一度だけクリスに言ったことがあるんだけど。心中願望ですかって笑われた」
「クリスも、知って?」
「ああ。…王宮の人たちも貴方も、何を疑うんだか知らないけどさ。オレが貴方しか見えてないことなんか、あいつは出会う前から知ってたよ」
「………」
「ファン様の治療さえ、結局は貴方のためなのだと知ってるから。実験動物みたいな扱いはやめろって、いつも釘を刺される」
「ウィル」
「酷い男だろ?オレの中には貴方に対する執着以外、何もないんだ」
空っぽなんだよ、と苦笑いを浮かべるウィルを、レフは力強く掻き抱いた。
離れたくない、と初めて思う。
長く生きてきて本当に初めて自分から、離れたくないと強く願う。
こんなにも自分だけを愛してくれる人はいない。どんな残酷な告白も、レフを歓喜させるものでしかない。
サシャの谷での研究も、王都へ戻ってからの行動も。幼い頃、毎日毎日自分の元へ通っていたことも。全ては今に繋がっている。
アメリアは自分だけが置いていかれると嘆いて、心を壊し刃を向けたけど。
レフには彼女を責めることが出来ない。レフも自分だけがこの世に残るのだと、心のどこかで諦めていた。
なのに、ウィルは。
そんな運命は認めないと言う。
絶対にレフを離さないのだと。
「…自分の弱さに、負けたりしないって。お前はずっと言ってた…」
「約束は守るもんだろ?」
「ああ…そうだな。お前はずっと、あの日の約束を守っている」
レフはウィルの腕の中で身じろぎ、身体を離して膝立ちになった。小さな手でウィルの頬を撫で、髪をかき乱す。
「王都に戻ってきたお前を見たとき」
「ん?」
「謁見の間で、三年ぶりにお前を見た時から…ずっとこの髪に、触れてみたかったんだ」
「触ってなかったっけ?」
「違う。あれは子供の頃のお前を、懐かしんでいただけだ。私は…こうして」
レフは囁きながら顔を傾け、ウィルに唇を重ねる。髪に指を挿し入れ、それを撫でたり乱したりしながら、口の中で舌を触れ合わせる。
「ん…っふ、ぁ…ん」
たどたどしくウィルの舌に歯を立てると、腰に回っていた逞しい腕がぎゅっとレフを引き寄せた。