【Will x Leff K】 P:09


 ずっとウィルが囁き続けた「そばにいる」という言葉の意味を、初めて知る。彼は幼い時からずっと、わかっていたのだ。
 何をレフが躊躇うのか。
 どうしてアメリアのことで、あんなにも苦しんだのか。

 生きる長さが違うから、自分は必ず取り残されるから。
 永遠に捕われ続けると思っていた、運命という名の鉄格子。
 レフは自分の閉じ込められていた檻が、いつの間にか消えていたことに気付いた。
 しかしレフは知らぬうちにかそこから連れ出され、代わりにウィルの腕の中へ、閉じ込められていたのだ。

 ……気付いてしまえば、簡単なこと。
 そう、この子は昔から賢しくワガママで、実現できないことは口にしない。

 なんだか身体中の力が抜けてしまって、レフはウィルに寄りかかった。

「レフ?」
「…お前、ずっとそんなことを考えていたのか」
「そうだよ。昔、一度だけクリスに言ったことがあるんだけど。心中願望ですかって笑われた」
「クリスも、知って?」
「ああ。…王宮の人たちも貴方も、何を疑うんだか知らないけどさ。オレが貴方しか見えてないことなんか、あいつは出会う前から知ってたよ」
「………」
「ファン様の治療さえ、結局は貴方のためなのだと知ってるから。実験動物みたいな扱いはやめろって、いつも釘を刺される」
「ウィル」
「酷い男だろ?オレの中には貴方に対する執着以外、何もないんだ」

 空っぽなんだよ、と苦笑いを浮かべるウィルを、レフは力強く掻き抱いた。

 離れたくない、と初めて思う。
 長く生きてきて本当に初めて自分から、離れたくないと強く願う。

 こんなにも自分だけを愛してくれる人はいない。どんな残酷な告白も、レフを歓喜させるものでしかない。
 サシャの谷での研究も、王都へ戻ってからの行動も。幼い頃、毎日毎日自分の元へ通っていたことも。全ては今に繋がっている。
 アメリアは自分だけが置いていかれると嘆いて、心を壊し刃を向けたけど。
 レフには彼女を責めることが出来ない。レフも自分だけがこの世に残るのだと、心のどこかで諦めていた。

 なのに、ウィルは。
 そんな運命は認めないと言う。
 絶対にレフを離さないのだと。

「…自分の弱さに、負けたりしないって。お前はずっと言ってた…」
「約束は守るもんだろ?」
「ああ…そうだな。お前はずっと、あの日の約束を守っている」

 レフはウィルの腕の中で身じろぎ、身体を離して膝立ちになった。小さな手でウィルの頬を撫で、髪をかき乱す。

「王都に戻ってきたお前を見たとき」
「ん?」
「謁見の間で、三年ぶりにお前を見た時から…ずっとこの髪に、触れてみたかったんだ」
「触ってなかったっけ?」
「違う。あれは子供の頃のお前を、懐かしんでいただけだ。私は…こうして」

 レフは囁きながら顔を傾け、ウィルに唇を重ねる。髪に指を挿し入れ、それを撫でたり乱したりしながら、口の中で舌を触れ合わせる。

「ん…っふ、ぁ…ん」

 たどたどしくウィルの舌に歯を立てると、腰に回っていた逞しい腕がぎゅっとレフを引き寄せた。