「戯言もいい加減にしておけよ、坊や。お前に何が出来るんだ?その手にしているものが力だなどと、本気で思っているなら随分とオメデタイ奴だな」
「………」
「私の望みを全て叶えると言ったか?出来るものならやってみろ」
ぎらぎらとした瞳に、泰成を閉じ込めている。
何も怖いものなどないと、いままでずっとそう言い放っていた泰成が、初めて背筋を寒くさせた。
そんなはずはない。
首を振る。
こんなこと、あろえない。簡単に組み敷いてしまえるような華奢な人間が怖いなんて、自分に限ってそんなはずはない。
泰成が唇を噛み締めて見返してくる表情が、その悔しげな顔がさっき走り去った少年に似ていて、惺は眉を寄せた。
こんなことに気付いてしまう自分が疎ましい。……でも。
そう、彼はまだ、十九の子供だ。
ふっと表情を和らげ俯いた。
「…傲慢な態度も、ほどほどにしておけ」
目を閉じる。ほどほどにしておかなければならないのは、惺自身も同じだろう。
――これは、八つ当たりなのだから。
惺はゆっくり息を吐いた。
足元が崩れるような錯覚と戦う少年を追い詰めたって、何にもならない。
「確かにお前が持っているものは力かもしれない。…なら、使いどころを誤るな」
静かな声で語りかける。
いきなり感情を尖らせた惺が、自力で冷静さを取り戻す様に、泰成は何度かまばたきを繰り返していた。
「何を…」
「お前が守るべきなのは、お前が手に入れなければならないのは、こんなものじゃないだろう?泰成…僕の欲しいものは、力なんかじゃない。お前にどんな大きな力があっても、それは手に入らない」
「惺、私は」
「お前では駄目なんだ」
顔を上げた惺は、胸が締め付けられるくらいに綺麗な顔で微笑んでいた。でもその顔はどこか、泣きそうで。
「どうして…なんでそう、決め付ける?私の何を知っているというんだっ」
泰成だってまだ、惺のことを何も知らないというのに。
しかし惺は、何かの確信持っているように、静かに首を振った。
「僕は一度、過ちを犯している。本当に必要なものを手放したことがある。…だからわかるんだ」
すうっと、深く息を吸って。
惺は泰成の頬に手をあて、じっとその目を覗き込む。
「お前じゃない」
「惺っ」
「お前では、駄目だ」
低く、迷いのない声。
かあっと頭に血を上らせて、泰成は惺の両手をベッドに押さえつけた。
「私のものになれ!」
「…なれない」
「惺っ!」
「力なんかで手に入れられるものは、限られている。いまここで、お前が無理矢理に僕を抱いても、それは僕がお前のものになったことにはならないだろう?」
諭す言葉に、泰成は首を振った。
強引に惺の浴衣を開く泰成の下で、諦めに似たため息を吐いた惺は、おとなしく体の力を抜いた。