はは、と笑いながら惺に背を向け、泰成は星のまばらな空を見上げて歩き出す。
「悪趣味は承知の上だ。だが興味を引かれたら何でもやってみるのが私の信条でね」
「被害者に申し訳ないと思わないのか?」
「顔も知らぬ誰かに、か?そんな酔狂な趣味は持ち合わせていないな」
「………」
「なあ、惺。首都で一番読まれているものはなんだと思う?聖書?シェイクスピア?それとも貴族目当ての新聞…ブロードシートか?違うね。この国の首都で一番読まれているのは大衆紙。いわゆる、タブロイドだ。スキャンダルに殺人、毎日飽きもせず同じような記事ばかり。だが人々は夢中になって読んでいる。人とは悪趣味なものなんだよ」
「お前なんかに人の愚かさを説かれるいわれはない。そんなもの…誰より僕が、一番知っている」
泰成は歩みを止め、惺を振り返った。
彼は苦虫を噛み潰したような顔で、自分の足元を見つめている。
視界に立ち止まる泰成の足先が見えたんだろう。ゆっくり上がった顔には、余計なことを言ったと後悔している色がありありと見て取れた。
「泰成…」
「そういう諦観の念は、もう少し悟った顔で語ったほうが良くないか?」
「…煩い。僕の勝手だろ」
むっとした表情がどこか子供っぽく見えて、泰成は頬を綻ばせる。
「さて…それで?惺はどうしてこの街へ?見失いかけているという目的は何だ?」
泰成が先ほどの問いを繰り替えすと、惺は諦めの滲んだ顔でただ、何かを考えるように前だけを見ていた。
「…僕は人を探して、ここへ来た」
「人探し?」
「ああ。…預かりものを返す為に。縁のある女性がこの街にいると、聞いたんでな」
「なるほどね」
「それが終われば…すぐに消える」
どこへ?と聞きたかったが、泰成はどうせ今聞いても無駄だろうと思って諦めた。
その代わりに惺を引き寄せ、柔らかく唇を塞ぐ。
どうにもわからない男だ。
何日も追いかけ、何度も肌を重ねたせいで、彼が快楽に弱いことはわかっている。抗う手がしだいに弱くなるのを感じて、泰成は唇を離し、彼の髪を撫でながら細い身体を抱きしめた。
呼びたいんだと囁いただけで、あっさり名前を教えたのは、彼がそうとうな寂しがり屋か、もしくは寂しいと思う気持ちが止められないくらい、孤独に苛まれていた証拠だろう。
なのに突然彼は、消える、なんて暗い言葉を使い、自分の言葉に傷ついた顔をしている。