せっかく泰成が手を差し伸べてやろうと言うのだから、縋ってしまえばいいのだ。どんな望みでも、泰成なら大抵は叶えてやれるのに。
人の愚かさは知っていると言いながら、辛そうに眉を顰め、寂しげな素振りを見せながら、消えると呟く。
本当に惺は、わからないことばかり。
しかし泰成は笑みを浮かべていた。謎が多いのは結構なことだ。
……その方が、面白い。
見上げてくる瞳が弱っているのに気付いて、泰成は優しく惺を撫で続ける。
泰成は指先で惺の顎を捉え、ちゅっと軽く口付けた。そうしてそのまま、惺の肩を抱いて歩き出す。
「探し人を諦めるのは惺の勝手だが、どうせなら手伝ってやろうか?」
「どういう意味だ」
「そのままだよ。あんたを追いかけ回しているのは悪趣味な男だが、それでもあんたに安くない宿を提供してやるだけの金と、人探しに役立つ心当たりがあるんだ。この際、街にいる間だけでも、利用してみるというのはどうだ?」
「泰成…」
「な?」
屈託なく笑い、勝手に話を進めてしまう泰成が、引く気のないことを知って。惺は溜め息を吐いた。
「本当に物好きだな、お前は」
「ああ。よく言われる」
「返してやれるものは何もないぞ?」
「それは、見つけてから考えるさ。…なあ惺。何か一つぐらい、探し人の情報はないのか?女性だという他に」
本当にこの若者を信用してもいいのか。
しばらく惺は迷っていたようだが、決心がついたのかほんの少し、肩を抱く泰成に身体を預けてきた。
「…名前はエマだと聞いた」
「エマ…エマね。珍しくもない名前だな」
「先に言っておくが、この街に住むエマと言う女性は、すべて確認したからな」
「名乗っている名前ばかりが本当だとは限らないだろ?それに、私の心当たりにはそういうことが関係ないんだ」
「関係ない?」
「ああ。なんとかなるだろ」
自分が探すわけでもないのに、泰成は自身のある様子で頷いている。
惺の名を知らなくても、惺の姿を見なくても、その居場所を言い当てた人物。相手に逃げる気がなければ、寸分違わず居場所を特定できる女。
明日、惺を連れて行ったら、シルヴィアはどんなに驚いて、そうして新たな依頼にどれほど不愉快な顔をするだろう。
想像するだけで楽しくなっているのは、泰成が彼女を気に入っている証拠だ。