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自分より弱いものに対する慈しみや、苦しみに耐え忍ぶ、我慢強さといったもの。
しかし泰成は今まで十九年生きてきて、それらを必要だと思ったことがないし、完璧な自分に欠けた部分など、認めたこともない。
この事件を知ったときも、まるで新しい玩具を見つけたような勢いで笑っていた。
そこには確かに命を失った者がいて、唐突な不幸に悲しみ嘆いている存在があるはずなのに、泰成はそんなもの、少しも気にならない様子だった。
そうして、ある日唐突に屋敷の者へ向かい「行って来る」と宣言。
祖国から付き従ってきた者のうち、一番年若い少年を連れてこの街へ来たのだ。
もちろん自分の手で犯人を捕まえようとか、やむことのない殺人を止めてやろうとかいう、正義感を感じたわけではない。
ヒトをオモチャのように殺す、そういう狂気に堕ちた人間というのに、興味があるだけ。
まるで小説や映画の世界じゃないか。怖がる従者に、泰成は笑って言った。
彼は単に面白がっているだけなのだ。血みどろの惨殺現場でも見られれば、満足して仮住まいのある首都へ帰っていくのかもしれない。
ところがそんな悪趣味極まりない泰成のことを、嘲笑うかのように。どうしても殺人鬼と遭遇できないのだ。
事件が起こったと聞いて駆けつけても、見られるのは警官の手で片付けられた現場のみ。薄くなった血の跡に、泰成が地団太を踏む日も一ヶ月を過ぎてしまった。
泰成は歩きながら周囲に目を凝らし、やはり誰も近づいてこないことを確かめて、咥えていた煙草を踏み消した。
―――あの女……どうしてくれよう。
この自分に嘘の情報を教え、待ちぼうけを食わせるなんて。万死に値する。
泰成にここへ行くよう指示したのは、娼館の女だった。
この街を管轄下に置く警察にも、市長にも、とにかく事件の新しい情報を回せ、と話をつけてある。あと出来ることといえば、普段はけして近寄らない、胡散臭い占い師でも使ってみるくらいだった。
もう占いでも何でもいいから、明確な情報が欲しい。
愚痴っていた泰成に、だったらよく当たる占い師がいるからと教えてくれたのは、気晴らしに買ってやった街娼。殺人鬼の横行する街で、一人だけ気丈にも客を探して街を歩いていた女だ。
彼女は「怖いぐらい当たるのよ」と囁いて、占い師のいる場所を教えてくれた。
教えられた場所は、街の中心を少し外れた所に立っている娼館。
そこの娼婦が気まぐれにやる占いに、定評があるのだと言う。