自分が街を歩く気になったのも、彼女の占いで「貴女は殺されない」と教えられたからなのだと。
そもそも「占いでもなんでもいい」などと言いながら、泰成はその占いというもの自体を信じていなかった。
大体が占いとか縁起とか、そういう根拠の無い話が大嫌いなのだ。
泰成が信じているのは金と力。
そうして、生まれた時からそれらを溢れるほど手にしている、自分だけだ。
しかし占いを信じて殺人鬼のいる街に立った、街娼の言葉には興味が沸いた。彼女がそれほどまで信じている占い師に会ってみたくなって、言われたまま娼館を訪れ、シルヴィアという名を指名したのだ。
自分がそんな珍しい行動をとったのは、いつまでも見つからない殺人鬼探しに飽きてきたせいだということぐらい、泰成は自覚している。
娼館で出会ったシルヴィアという、その占い師兼娼婦は、妖しい美貌に物憂げな表情の似合う、泰成よりいくつか年上の女だった。彼女は客や娼婦仲間に、気が向いたときだけ占いをして見せ、小銭を稼いでいるのだという。
元々信じていない占いだ。
怖いくらい当たると言うなら、そこには何かのからくりがあるはずで、おそらくシルヴィアは他の娼婦たちが知らない情報源を持っているのだろう。
泰成は彼女の身体を散々抱いた後で、ベッドに金をばら撒いた。
「私の目的は、この街で起こっている事件だ。その犯人なり、次に起こる現場なりを教えろ。役に立てば倍額払ってやる」
居丈高に命じた泰成を見上げ、シルヴィアは溜め息をついて色彩の豊かなカードを広げた。
抱かれている時から少しも泰成に媚びることのかなったシルヴィアは、ばら撒かれた札束に触れようとも、またそれを撥ね付けようともせず、ただ黙ってカードを操っていた。
金で買われるのが商売の娼婦なら、ばら撒かれた金の多さに、少しくらい目の色を変えそうなもの。
謎めいた態度に、泰成は訝しがりながらも興味を持った。
彼は鋭い感性の持ち主で、容姿にも優れている。金と権力に困ったことはなく、また、それらを有益に使う術を心得ている。
泰成に媚びへつらい、少しでもいい思いをしようと擦り寄る存在は、祖国にいた頃から男も女も、後を立たなかった。それがわかっていてなお、札束で人の面を張るようなことを、平気でやる青年なのだ。