こんなことで、物事が面白くなるはずがない。何もかも泰成の指から零れていくのは当然のことだ。最後まで追いかけようとしないのに、何も面白くないなどと愚痴るのは、駄々を捏ねる子供と同じ。
自負して遜色ないだけの明晰な頭脳を持ちながら、泰成は自分の浅はかさに気付かない。
自分勝手な結論を出して、泰成が踵を返し歩き出した時。
空気を震わせるような銃声が、辺りに響いた。
君子は危うきに近寄らないものだが、泰成は目を輝かせて音のした方へ向かう。つまらないことばかりの夜に、ようやく気晴らしを見つけた。
殺人鬼のエモノはナイフだと聞いているから、警察かもしれない。いやもう、この際面白いなら、どっちだって構わない。
銃声を聞いて、そちらへ駆け出した泰成は、己の身の危険など考えていなかった。
どんな凄惨な現場を見られるだろうと、悪趣味なことしか考えていない。
音のした路地裏を覗き込んだ泰成の耳に、再び続けざまな銃声が聞こえた。
銃を手にしているのは、やはり警官だ。
そっと物影に身を潜ませながら見守っていると、その警官は何度も何度も倒れている男に弾を打ち込み、やがて弾倉が空になったのか、カチカチと乾いた音を拳銃にさせ、荒い息をついていた。
「化け物め…っ!」
吐き捨てるような罵りの言葉。
警官は倒れている男を憎々しげに見下ろし、泰成の存在にも気づかず走り去った。
一部始終を見ていた泰成が首を傾げる。
倒れているのは、例の殺人鬼だろうか?毎夜のように、警官たちが街を警邏しているのは、知っているが。ようやく犯人を見つけたのか?
……いやしかし、あまりに一方的で執拗な攻撃だった。
それに警官が、犯人の死体から逃げ出すなんて。仲間の到着を待ったり、現場を保持したりしないものなのだろうか?
不思議に思って物影に立ち止まっていた泰成は、次の瞬間ぎょっとして目を見開いた。
「な……っ!」
思わず声を抑え、息を詰める。
撃たれていた男が、ゆっくり立ち上がったのだ。
―――生きて……いる?
確かにさっき撃たれたばかりの男は、何事もなかったかのような様子で、血だらけになった上着を脱ぎ、泥のついた膝を払って、溜め息などついている。
……ありえない。
男の手にしている上着を染めた赤が、確かに撃たれたのだということを物語っているのに。